研究課題
本研究では、間質性肺炎におけるAngptl2の役割を明らかにすることを目的としている。昨年度までの研究成果では、ヒト肺線維症患者の線維化部位におけるAngptl2の発現を確認した。本年度はヒト肺線維症患者の血清Angptl2値の測定を行った。肺線維症患者の血清Angptl2値は健常人と比較して有意に高値であることを見出した。さらに、血清Angptl2値は肺活量、肺拡散能と逆相関を示し、間質性肺炎のマーカーであるKL-6とは正の相関を示すことを見出した。以上の結果より、血清Angptl2値は間質性肺炎の活動性の指標となる可能性が示唆された。次に、肺におけるAngptl2の機能を明らかにするために、Angptl2ノックアウト(KO)マウスを用いた解析を行った。無刺激のAngptl2 KOマウスの肺は、野生型マウスと比較して構造的に大きな変化は見出さなかった。また、4種類の肺サーファクタントタンパク(A~D)のmRNA値をリアルタイムPCR法にて解析したが、それらのmRNA値も両群間に違いはみられなかった。一方、Angptl2 KOマウスにおける肺機能を測定したところ、Angptl2 KOマウスでは拘束性障害を呈する結果がみられたため、Angptl2 KOマウスのコラーゲン含有量を検討した。Angptl2 KOマウスでは肺におけるヒドロキシプロリン量が野生型マウスと比較して増加していた。また、Angptl2 KOマウスにおいてブレオマイシン肺臓炎モデルを作成したところ、野生型マウスと比較して線維化の亢進を見出した。一方、Angptl2 KOマウスと野生型マウス間にて骨髄移植を行いブレオマイシン肺臓炎モデルを作成したが、線維化形成に骨髄移植の影響はみられなかった。以上の結果より、肺胞上皮細胞におけるAngptl2の発現が肺の線維化抑制に重要である可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
今回、ヒト肺線維症患者における血清Angptl2値が健常人と比較して有意に高値であることを見出し、さらに血清Angptl2値が肺活量、肺拡散能と逆相関すること、従来肺線維症のマーカーとして用いられてきたKL-6と正の相関が見られたことより、血清Angptl2値が肺線維症の活動性を示すマーカーとして活用できる可能性が示唆された。また、Angptl2 KOマウスを用いた解析により、肺におけるAngptl2の発現の重要性が確認できた。肺線維症を促進させる因子としては、肺胞上皮細胞と肺胞マクロファージ、さらには骨髄由来の細胞が重要であることが知られているが、今回、野生型マウスとAngptl2 KOマウス間において骨髄移植を行い、ブレオマイシン肺臓炎モデルを作成し線維化の程度を観察したところ、骨髄移植における影響は見られなかったため、肺胞上皮細胞におけるAngptl2の発現が肺線維症形成に重要であることが示された。また、Angptl2 KOマウスでは無刺激な状態においても自然に肺線維化が促進していることも見出しており、肺胞上皮細胞におけるAngptl2の発現は、肺線維化形成抑制に関与している可能性が示唆された。本年度の結果は、血清Angptl2値が肺線維症の活動性マーカーとして有用である可能性が示唆された点、また肺胞上皮細胞におけるAngptl2発現の重要性が明らかになった点より、当初の計画以上に進展していると考えられる。
本年度の解析により、①ヒト肺線維症患者における血清Angptl2値測定の有用性、②肺胞上皮細胞におけるAngptl2発現の重要性、を明らかにした。今後は、①に関しては、肺線維症患者の血清を経時的に採取し、肺線維症の進行時、あるいは寛解時における血清Angptl2値を比較することで、血清Angptl2値が肺線維症の活動性マーカーとして有用であるか検討する。②に関しては、aP2プロモータにてAngptl2を強く発現しているトランスジェニックマウス(aP2-Angptl2 Tgマウス)を用いた解析を行う。既に研究代表者はaP2-Angptl2 Tgマウスでは肺胞マクロファージにおいてAngptl2が強く発現していることを確認している。今後は、aP2-Angptl2 Tgマウスと野生型マウスを用いてブレオマイシン肺臓炎モデルを作成し、肺胞マクロファージにおいて分泌されるAngptl2が肺胞上皮細胞に作用し、肺線維化の進行に影響を与えるかどうか検討する。さらに、野生型マウス、Angptl2 KOマウスの肺における遺伝子発現の違いを明らかにするために、ブレオマイシン投与前後における肺組織のmRNAの変動を次世代シーケンス法を用いて解析する。これらの解析を行うことで、肺におけるAngptl2の発現欠損がどのようなメカニズムにて肺線維化を促進するかを解明できると考えられる。また、ブレオマイシン肺線維症モデルに対してリコンビナントAngptl2タンパクを投与し、肺線維症が軽減できるかについても検討する予定である。
すべて 2015 2014
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