研究課題
基盤研究(C)
平成25年度は、肺コレクチン,特にSP-Dに焦点を絞って、EGFシグナルへの影響とその機序を調べた。(1)SP-Dは濃度依存性にA549細胞の増殖を抑制し、EGFによるA549細胞の遊走・浸潤を抑制した。SP-Dは濃度依存性にA549細胞、H441細胞、EGFR安定発現CHO-K1細胞のEGFRリン酸化、Erkリン酸化、Aktリン酸化を抑制した。(2)SP-DがEGFとEGFRの結合に与える影響を調べたところ、SP-Dは濃度依存性に125 I- EGFとA549細胞のEGFRとの結合飽和度を低下させた。(3)A549細胞由来EGFRの糖鎖解析とSP-Dとの結合解析では、メンブレン上のA549細胞由来EGFRにSP-Dが直接結合した。さらに、メンブレン上のsEGFRにSP-Dは結合したが、N型糖鎖を切断したsEGFRには結合しなかった。ELISAにおいてもSP-DとsEGFRとの結合が確認され、EDTAとマンノースによって両者の結合が阻害された。またN型糖鎖を切断したsEGFRにはSP-Dは結合しなかった。表面プラズモン共鳴センサーにおいてもsEGFRとSP-Dの結合が確認され、KD = 3.2 ×10-8 Mであった。EDTAとマンノースにより両者の結合が阻害され、N型糖鎖を切断したsEGFRにはSP-Dは結合しなかった。(4)CHO-K1細胞由来EGFRの糖鎖を解析したところ、sEGFRのドメインIII (EGFの結合部位) に存在する328番目と337番目のアスパラギン残基に高マンノース型のN型糖鎖が存在することがわかった。平成25年度研究によって、SP-DはEGFRの細胞外ドメインに存在する高マンノース型のN型糖鎖に糖鎖認識領域を介して結合し、EGFRのリガンド結合を阻害することにより、EGF シグナルを抑制し、抗腫瘍作用をもたらすと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
肺コレクチン 、特にSP-Dが肺腺がん細胞の増殖、遊走、浸潤を抑制することを明らかにした。その機序として、SP-DとEGFRとの結合を示し、 SP-DのリガンドとしてEGFRの糖鎖構造を明らかにした。SP-Dに関しては、予想以上の進展であった。可溶型受容体sEGFRの作製と精製に時間を要したこともあり、SP-Aについては、現在検討中である。コレクチンによるMMP活性制御については、SP-AとSP-DともにマクロファージのMMP活性を抑制する予備実験結果を得ているが、再度確認中である。
コレクチンのうち、SP-Aの抗腫瘍活性とその機序については、SP-Dと同様にレクチン活性に由来するものかどうか、EGFシグナルを抑制するものによるかどうかを明らかにしたい。MMP活性は肺気腫進展に関与しているので、肺コレクチンによるMMP制御の有無を確定し、肺気腫進展への憎悪因子である喫煙に暴露した際のサーファクタントとその成分の機能ををMMP活性を指標に調べることにより、抗気腫化因子としてのサーファクタントの新たな機能を見いだしたい。
出張旅費と謝金を他助成金で支払ったため、125,031円の残額がでた。次年度は、学会出張を予定。一部、消耗品費として使用予定である。
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