研究課題/領域番号 |
25461194
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
黒木 由夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (70161784)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 肺サーファクタント / コレクチン / EGFシグナル / ディフェンシン / アクロレイン / 肺癌 / 肥満細胞 |
研究実績の概要 |
(1)平成26年度は、肺コレクチンのうち、SP-Aに焦点を絞って、その抗腫瘍活性と機序を調べた。SP-Aは、肺腺癌細胞株A549細胞の増殖を濃度依存性に抑制し、EGF刺激による癌細胞の遊走と浸潤を有意に抑制した。さらに、A549細胞およびEGF発現CHO-K1細胞に対するEGF刺激EGFR、ErkとAktのリン酸化を抑制した。また、H441細胞、Sq1細胞、Lu99細胞とLc817細胞においても同様の結果であった。SP-Aは、125I-EGFのEGFRへの結合を阻害した。ligand blotにより、抗EGFR抗体で免疫沈降したEGFRにSP-Aが直接結合することが示された。このことは、細胞外ドメインから成る可溶型組換えEGFR(sEGFR)へのligand blotとELISAにより確認されたが、SP-AはN型糖鎖切断sEGFRにも結合した。SP-AはCa2+非依存性にsEGFRに結合し、SP-DのEGFRへの結合機序とは異なっていた。A549細胞はgefitinibによる増殖が抑制されるが、SP-Aとの併用により相乗効果を認めた。 (2)たばこ煙ガス相成分の一つであるアクロレインは肺コレクチンのリジン残基を修飾するが、質量分析により修飾部位の同定を行っている最中である。(3)SP-AとSP-AのTy161-Lys201領域(ペプチドSAP01)がヒトβ-defensin 3 (hBD3)刺激による肥満細胞の遊走亢進を阻止したが、肥満細胞の脱顆粒には影響しなかった。形態学的にはhBD3により肥満細胞の突起状仮足の伸長が観察されるが、SP-AとSAP01の添加により形態変化は消失した。表面プラズモンセンサーによりSP-AとSAP01はhBD3に結合することが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SP-AもSP-Dと同様にEGFシグナルを抑制することによって肺癌細胞の増殖、遊走と浸潤を抑制することを明らかにしたが、SP-AはSP-Dと違ってN型糖鎖除去EGFRに結合した。さらに、たばこ煙中アクロレインにより肺コレクチンが修飾されることが判明し、現在はその部位を同定し、修飾後コレクチンの機能を調べている。肥満細胞を介するhBD3惹起炎症をSP-Aが抑制するという新たな生体防御機構を提示できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、SP-AによるEGFシグナル抑制と抗腫瘍活性について、SP-AのEGFR結合部位を同定する。また、アクロレインにより修飾されるコレクチン領域は質量分析にて解析中であり、修飾後コレクチンの生体防御機能を非修飾蛋白と比較する予定である。肥満細胞を介するhBD3惹起炎症をSP-Aが抑制するという新たな生体防御機構を提示したが、肥満細胞遊走に関わるhBD3受容体の同定とSP-Aによる肥満細胞遊走亢進阻止の機序を明らかにして、hBD3惹起の過剰なアレルギー反応を制御する手段として、SP-AあるいはペプチドSAP01が臨床応用可能であるかどうかを検証したい。
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