研究課題
本研究の目的は、申請者らが見出したフラジェリンが気管支喘息患者の病態形成にどのように関与しているのかを解明し、診断、治療につながる臨床的意義を見出すことである。平成26年度は、下記にあげた研究項目1.2.について研究を実施し、以下の研究計画の進展を得た。研究項目1:気管支喘息患者の血清中抗フラジェリン抗体の臨床応用の検討平成25年度に構築した血清中抗フラジェリン抗体測定系を用い、更に測定検体数を増やし、合わせて臨床データを蓄積した。現時点での解析の結果、正常コントロール群と比較して気管支喘息患者群の血清中抗フラジェリン抗体は、増加傾向を示したが、統計学的な有意差は認められなかった。臨床データとの相関関係は現在、解析中である。更に同一気管支喘息患者群の約1年経過の血清中抗フラジェリン抗体測定を開始した。研究項目2:フラジェリンによる気管支喘息発症メカニズムの解明平成25年度で確立したハウスダストダニ抗原(HDM)を用いたマウス気管支喘息モデル、レーザーマイクロダイセクション法による気道上皮細胞の切り出しとRNA抽出及び網羅的遺伝子解析によりターゲット遺伝子同定を試みた。しかし、質的、量的に安定したRNAの抽出が困難であったため、気道上皮細胞からのRNA抽出を断念し、肺組織からのRNA抽出に変更した。解析の結果、TLR4を介した自然免疫機構に不可欠な分子であるMyeloid differentiation factor 2 (MD-2)が同定された。この研究成果を論文化し、現在、投稿中である。更に同様の解析手法を用いたフラジェリン誘導性アレルギー性気道炎症関連遺伝子及びシグナル伝達経路の探索を開始した。また、フラジェリンは、アジュバントとしてだけではなく、抗原としても作用し、アレルギー性気道炎症、気道過敏性亢進、気道粘液産生亢進などを誘導することを、マウスを用いて証明した。
3: やや遅れている
臨床研究血清中抗フラジェリン抗体の測定系と臨床データベースの構築後、順調に検体数を蓄積することができたが、現時点で正常コントロール群と気管支喘息患者群で統計学的な有意差は認められなかった。今回の患者群は、加療により安定期の患者が多いため、先行研究と同様の結果が得られていない可能性がある。採決時の患者病態も考慮しながら、更なる検体数の蓄積が必要と考える。基礎研究レーザーマイクロダイセクション法による気道上皮細胞の切り出しと安定したRNAの抽出に難渋したことが要因と考える。しかし、肺組織からのRNA抽出に変更し、研究を進めたことによりHDMによるアレルギー性気道炎症成立過程におけるターゲット遺伝子の同定に成功しており、同様の手法によりフラジェリンによるアレルギー性気道炎症成立過程における網羅的解析が円滑に行えると考える。
平成26年度の研究実績を踏まえ、平成27年度は、以下の臨床研究、基礎研究を推進する予定である。臨床研究に関しては、継続して検体採取し、データの蓄積に務める。血清中抗フラジェリン抗体の経時的推移、特に発作時、非発作時の変化にも着目して解析を行う予定である。また、血清中抗フラジェリン抗体が高値と低値の患者から鼻腔内、口腔内洗浄液を採取し、細菌叢のメタゲノム解析を行う予定である。基礎研究に関しては、マウス喘息モデルを用いて、フラジェリン誘導性アレルギー性気道炎症発症に関与する標的遺伝子及びシグナル伝達経路を網羅的遺伝子解析により同定する予定である。また、喘息発症におけるフラジェリンの抗原性についても並行して解析する。治療の側面からは、フラジェリン受容体であるTLR5の中和抗体の抑制効果を、マウス喘息モデルを用いて検証する。更に気道上皮細胞株を用いて、フラジェリンを含めた自然免疫活性化刺激による上皮バリア機能への影響を検討する予定である。
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Allergology International
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呼吸と循環
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