研究課題/領域番号 |
25461207
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲城 玲子 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (50232509)
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研究分担者 |
南学 正臣 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90311620)
和田 健彦 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90447409)
大瀬 貴元 東京大学, 医学部附属病院, その他 (10568447)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エピゲノム / ポドサイト / 蛋白尿 / アクチン / コータクチン / 細胞骨格 / 糸球体腎炎 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
近年、腎臓病の病態形成・進展に関わる要因として、腎臓細胞におけるエピゲノム変化が注目されている。つまり、腎障害を引き起こす様々なストレス(虚血、代謝異常、炎症など)は腎臓細胞のゲノム構造を変化させたり、microRNA(20から25塩基ほどの小さなRNAでmRNAの転写や翻訳を制御する)の発現レベルを変動させることが分かってきた。そうしたエピゲノム変化が細胞の遺伝子発現パターンをダイナミックに制御し、病態形成・進展に関与することが推測される。ゲノム構造、特にヒストンとDNAの巻きつきの強さを変化させる因子としてクロマチンのアセチル化酵素や脱アセチル化酵素がよく知られており、それらの発現が腎病態において変動することや、それを正常化することで病変が改善できる可能性などが示唆され今後の治療戦略として注目されている。 我々も腎機能恒常性におけるエピゲノムの病態生理学的意義の解明を目的に、エピゲノム制御因子のひとつであるSIRT1(ヒストン脱アセチル化酵素で、酵母の長寿遺伝子Sir2のヒトホモログ)のポドサイトにおける役割を検討してきた。その結果、予想に反しSIRT1がヒストン脱アセチル化を介してエピゲノムを変化させるだけでなく、非ヒストン蛋白の脱アセチル化を制御し、ポドサイト機能に関与することを見いだした。具体的にSIRT1は細胞骨格関連分子コータクチン(cortactin)の脱アセチル化を制御し、脱アセチル化コータクチンがアクチン細胞骨格の重合・安定性を促すこと、それがポドサイトの機能的形態維持に深く関与し、破綻すると蛋白尿の原因になることなどを明らかにした。 これら成果から、ポドサイトの新たな細胞骨格制御機構(SIRT1-cartactin-actin経路)を見いだし、SIRT1によるポドサイト保護を介した新たな腎保護戦略が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、尿細管上皮細胞において様々なストレス(虚血や小胞体ストレス)の経過や負荷の違いによって発現が変動するmicroRNA群、さらにはストレス適応応答を制御するmicroRNA群を同定してきた。なかでもmiR205に関しては、その標的遺伝子としてPHD1を同定し、尿細管上皮細胞においてストレス適応反応の適切な活性制御に働くこと、それが細胞機能維持の恒常性に繋がる事を明らかにしてきた。 しかし、さらに新しいストレス関連microRNA群の標的遺伝子同定や病態生理学的機能解析は、論文掲載に至るまでの十分なレベルまで研究が進められなかった。 その一方で、microRNA同様にエピゲノムに関与するSIRT1の糸球体ポドサイトにおける機能解析を発展させることが出来、招待講演や論文によって研究成果の発表を行えた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度として 尿細管において虚血・小胞体ストレスで発現が変動するmicroRNA群の標的遺伝子同定を進める。2つのストレスによる発現変動が著しいmicroRNAに焦点を絞り、それらの標的遺伝子をin silico,あるいはストレスシグナル関連因子群の中から同定する。それら成果によって、microRNAによる標的遺伝子発現制御の尿細管細胞機能維持における役割、さらには腎臓における病態生理学的意義を解析する。 また、これまでに明らかにしてきたポドサイトにおけるSIRT1-cortactin-actinの相互作用の分子メカニズムを更に詳細に検討し、ポドサイト機能恒常性におけるこれら相互作用の重要性を明らかにする。これは本研究課題の波及課題で、ポドサイトバイオロジーに関する新しい研究課題としての発展を目指す。
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