研究課題/領域番号 |
25461212
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
吉田 豊 新潟大学, 医歯学系, 講師 (40182795)
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研究分担者 |
矢尾板 永信 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00157950)
山本 格 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30092737)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腎臓学 / IgA腎症 / IgA免疫複合体 / 凍結腎生検標本 / 糸球体 / EMARS法 / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、凍結腎生検標本を用いて、糸球体メサンギウム領域にIgAを主体とする沈着物を認める原発性糸球体腎炎であるIgA腎症において、IgA免疫複合体を構成するタンパク質分子を質量分析計により定性的・定量的に解析することにある。糸球体を特異的に解析することは研究の精度を高めると考え、Laser microdissectionで回収した糸球体を研究対象とした。さらに、大量に存在する血液由来タンパク質を除去するために、凍結切片を氷冷PBSで浸漬洗浄し、ほとんどの血液由来タンパク質を除去する方法を確立した。一方で、IgA免疫複合体を可視化するため蛍光色素で標識する方法として、EMARS法の基礎的検討を行った。EMARS法は標的としたタンパク質を認識する抗体(一次抗体)を組織に結合させ、さらにHRP標識した二次抗体を結合後、FITC-arylazideと反応させると、FITC-arylazideが活性化されてフリーラジカルを生じ、標的タンパク質周囲200-300 nmのタンパク質がFITCで標識されることを利用する。本年度は、このEMARS法を腎組織に応用することを目的として、ラット腎臓から高度に精製した糸球体を対象とし、スリット膜に存在するネフリンの細胞外ドメインを認識する抗体を一次抗体として用い、ポドサイト表面から、ネフリン周囲に存在するタンパク質を質量分析法を用いて網羅的に同定する方法を確立することを目的とした。検討の結果、FITC-arylazideは内在性peroxidaseに起因する非特異的な反応が多いことがわかり、FITC-tyramideを用いる方法に切り替えることにより、一次抗体特異的にFITC標識することに成功した。さらに、FITC標識タンパク質を精製・濃縮するため、抗FITC抗体を用いた免疫沈降法を試み、特異的な免疫沈降に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1) 凍結腎手術標本からlaser microdissectionで回収した糸球体には大量の血液由来タンパク質が含まれ、IgA免疫複合体を構成するタンパク質の同定・定量に干渉することが予想されたため、血液由来タンパク質を効率よく除去する方法を確立することから開始したため。 2) EMARS法による標的タンパク質の同定には、特異的標識が可能かどうか、解析に必要なFITC標識タンパク質を効率的に回収できるかが重要である。最初の検討課題として、ラット腎臓から高度に精製した糸球体を材料とし、スリット膜構成タンパク質であるネフリンの細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体を一次抗体として用いて、細胞外からネフリンの近傍にあるタンパク質(スリット膜構成タンパク質)をFITC標識して、質量分析計で同定できるかどうかを検討した。しかし、ラット腎組織は内在性のperoxidase活性が高く、常法のperoxidase抑制処理を行っても、特異的なFITC標識を示す結果は得られなかった。そこで、標識試薬をFITC-arylazideからFITC-tyramideに変えたところ、一次抗体依存性にタンパク質をFITC標識できることがわかった。 3) EMARS法により特異的に標識されるタンパク質は低濃度であり、質量分析計で解析を行うためには、FITC標識されたタンパク質を濃縮する必要があることがわかった。そこで、抗FITC抗体を用いて、FITC標識されたタンパク質を免疫沈降法で精製・濃縮する方法を検討し、FITC標識タンパク質を効率よく分離濃縮することに成功した。この方法の困難な点は、未反応のFITC試薬が存在であり、特異的標識タンパク質の免疫沈降の収量を著低下させる事にある。そこで未反応のFITC試薬をほぼ完全に除去する方法を検討するために、時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
1)ラット腎臓から精製した糸球体を用いて、EMARS法とプロテオミクスを組み合わせて、ネフリン複合体を構成するタンパク質を同定することは、生理学的にも、病態生理学的にもきわめて興味深い課題であり、PAN腎症などの腎疾患モデルでネフリン複合体構成成分の変化を知ることは大きな意義がある。共同研究者とともに、この課題も継続して行う予定である。 2)ラット腎臓糸球体を用いたEMARS法の検討でタンパク質複合体のFITC標識法が確立された場合には、腎生検試料を用いた検討に入る。検討課題は、1) どのくらいの量の糸球体切片が必要であるか、2) IgAを含む複合体をどのように可溶化するか、3) IgAヒンジ部の糖鎖異常の検出法、そして、4) IgA腎症の腎生検試料をいかに入手するか、の以上4点に絞られる。1)、2)、3)は、これまでにも報告があり、検討すべき点が整理されている。また、4) は現在本学の腎臓内科の協力の内諾を得ており、倫理委員会の承認を得ている。将来的には、IgA腎症症例を多く集まる病院にも協力を依頼する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
基礎的な検討の段階で時間が必要であり、質量分析計による解析、そして本来のIgA腎症患者の腎生検試料の解析まで到達できなかったことが大きな理由である。しかし、基礎的な検討の段階は概ね完了しているので、次年度に実験が集中することが予測され、そのための費用に余裕があることは望ましい状況といえる。
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次年度使用額の使用計画 |
質量分析の解析例が増加することが予想されるので、質量分析を行うための消耗品(カラム、スプレーニードル、プラスチック製品)、ラット腎疾患モデル作成のための動物購入やEMARS法の実施と結果確認のための抗体などの試薬を含めた経費、IgA腎症腎生検標本糸球体解析のための経費(レーザーマイクロダイセクション委託費、糖鎖異常を検出するためのレクチンや特異的抗体などの試薬費、結果確認のための抗体などの試薬費など)。
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