研究課題
1)糖尿病性腎症(腎症)は我が国の透析導入原疾患の第一位であり、今もなお新規治療法の開発が望まれている。特に、集学的治療によっても尿蛋白が持続し、末期腎不全に至る治療抵抗性症例に対する新規治療法の開発は、腎症研究領域における重要な検討課題の一つである。この課題に対し我々は、「尿蛋白に伴う腎脂肪酸毒性からの近位尿細管保護」を目指した基礎研究を進めてきた。これら一連の検討の中で、尿蛋白に付随し近位尿細管細胞に流入する「飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランス制御」が腎症における治療標的と成り得るとの知見を示した。この研究成果を背景に本研究では、動物実験を中心とした基礎研究により、近位尿細管細胞内の「飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランス制御」に関わる新規治療標的分子の同定を目指すと共に、現在既に治療抵抗性尿蛋白を呈する腎症症例を対象とした臨床研究にて、ω3系多価不飽和脂肪酸製剤による飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸バランスの是正が、尿細管障害の改善を伴う腎機能低下抑制効果を示しうるかを検討することとした、培養近位尿細管細胞に飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に変換する酵素SCD1を過剰発現させ、飽和脂肪酸毒性にともなう細胞死が有意に抑制される結果となった。現在、近位尿細管細胞特異的SCD1過剰発現マウス、SCD1ノックアウトマウスの作製解析を行っており、飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸バランスが腎症の治療標的になりえるかを更に検討する。SNP解析による腎症感受性遺伝子と脂肪毒性との関連を検討したが、腎症進展に関わる新規遺伝子を同定するには至らなかった。
3: やや遅れている
細胞実験による結果はおおむね順調に得られたが、SCD1過剰発現マウスの作製に一時難渋した。現在は作製に成功し、順調にマウス数の増加、今後の実験の準備が進んでいるが、本年度に達成する予定であった、機能解析まで実施することができなかった。本研究課題は次年度に持ち越すこととした。
<基礎研究①> 平成26年度に作製した近位尿細管特異的SCD1欠損マウスに対し、腹腔内脂肪酸結合アルブミン負荷モデルによる尿細管病変を惹起し、SCD1発現の減弱が脂肪酸の結合したアルブミン流入に伴う尿細管病変進展に及ぼす影響を検討する。この尿細管間質病変を評価する為の同疾患モデルは当教室で既に確立されている。さらに、近位尿細管特異的SCD1欠損マウスにおいて、脂肪酸結合アルブミン腹腔内負荷による尿細管病変の増悪が確認された際には、更にこれらマウスに対し、一価不飽和脂肪酸あるいはω3多価不飽和脂肪酸の食餌負荷を行い、腹腔内脂肪酸結合アルブミン負荷による尿細管病変が改善しうるかを検討する。不飽和脂肪酸投与により、SCD1欠損状態における尿細管病変の悪化が改善された際には、SCD1発現減弱による(一価)不飽和脂肪酸合成の低下が尿細管障害の悪化に関与しうるとの仮説を証明することとなる。<基礎研究②> 4週間の高脂肪食負荷により肥満2型糖尿病が誘発された野生型マウスの腎において、SCD1発現が減少しうることを既に確認している。平成25年度に作製した近位尿細管特異的SCD1過剰発現マウスに対し、同様に4週間の高脂肪食負荷を与え、肥満2型糖尿病状態であっても腎内のSCD1発現が維持されるマウスモデルを作製する。非肥満マウス、肥満2型糖尿病マウス、近位尿細管特異的SCD1過剰発現肥満2型糖尿病マウスに腹腔内脂肪酸結合アルブミン負荷を行い、尿蛋白に伴う尿細管障害を惹起する。これにより、糖尿病状態でも尿細管細胞局所におけるSCD1発現を維持させることが、治療抵抗性尿蛋白症例の治療標的と成り得るかを検討することできる。
H26年度の計画していた一部の研究が遅延し、当該実験に使用予定であった部分の予算を使用できなかった。
H26年度に予定していた実験は現在進行中であり、H26年度使用予定であった残余予算を継続してH27年度予算と共に使用する。
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