糖尿病性腎症(腎症)は我が国の透析導入原疾患の第一位であり、今もなお新規治療法の開発が望まれている。特に、集学的治療によっても尿蛋白が持続し、末期腎不全に至る治療抵抗性症例に対する新規治療法の開発は、腎症研究領域における重要な検討課題の一つである。この課題に対し我々は、「尿蛋白に伴う腎脂肪酸毒性からの近位尿細管保護」を目指した基礎研究を進めてきた。これら細胞実験を用いた一連の検討の中で、尿蛋白に付随し近位尿細管細胞に流入する「飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランス制御」が腎症における治療標的と成り得るとの知見を示した。この研究成果を背景に本研究では、動物実験を中心とした基礎研究により、近位尿細管細胞内の「飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランス制御」に関わる新規治療標的分子の同定を目指すかを検討することとした。本研究は、治療抵抗性腎症における治療標的を「尿蛋白の量」から「尿蛋白の質」へ移し、持続する尿蛋白からの近位尿細管保護を目指した新規治療法の開発を目的としている。本年度は作製した遺伝子改変マウスを用いた表現系解析を行った。飽和脂肪酸から一価不飽和脂肪酸への変換に不可欠なSCD1を近位尿細管細胞特異的に過剰発現ならび欠損するマウスを作成し、糖尿病性腎症に類似した蛋白尿モデルをい作製し、尿細管細胞における飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスが蛋白尿に伴う尿細管障害に及ぼす影響を検討したが、いずれのマウスも野生型マウスに比し有意な増悪、改善を認めなかった。この結果は内因性の脂肪酸分画の変化は腎症の予後に影響を及ぼさない結果を示した。
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