研究課題
基盤研究(C)
糖尿病性腎症の病理学的特徴は糸球体硬化症であり、その主たる特徴は糸球体における細胞外基質IV型コラーゲン(Col4)の増加である。我々はCol4の転写を正の方向に制御する因子として新たにSmad1を同定した。そこで本研究の目的は、糖尿病性糸腎症におけるSmad1およびその活性化シグナルの役割をin vivoで検討することにある。初年度は、1)Smad1強発現糖尿病マウスの解析、2)Smad1欠損マウスの作成と疾患モデルの確立 3) Smad1の活性化を制御する上流分子の役割検討をおこなった。1)については、解析は終了し、論文投稿中である。2)については、通常のノックアウトマウスでは胎生致死のため、タモキシフェン誘導全身Smad1欠損マウスの作成を試み成功した。疾患モデルとして、まずは半月体形成性糸球体腎炎を惹起した結果、糸球体硬化病変の抑制が確認できた。(論文投稿中)。現在、同マウスに糖尿病を惹起し腎組織病変を検討中である。3)については、Smad1の上流シグナルであるBone morphogenetic protein 4(BMP4)に注目した。徳島大学腎臓内科との連携により、「BMP4が糸球体メサンギウム細胞においてSmad1の活性化やCol4の産生増加をきたすこと」、「BMP4強発現マウスでは糖尿病を惹起しなくても糖尿病腎症様の糸球体病変をきたすこと」を既に報告している(JBC 2011)ため、野生型糖尿病マウスおよびSmad1強発現糖尿病マウスに対して、in vivoでBMP4抑制を行ない、腎病変に対する治療効果を検討している。
2: おおむね順調に進展している
現在までのところ、おおむね順調に進展している。糖尿病モデルマウスにおけるSmad1の意義の検討については、Smad1強発現糖尿病マウスで糸球体病変の悪化をきたすことが確認できている。タモキシフェン誘導Smad1欠損マウスも確立し、半月体形成性腎炎を惹起した検討では糸球体病変が軽度であることも示しており、糖尿病を惹起させたマウスも既に作成して腎病変を解析中の段階である。さらに、Smad1の活性化を制御する上流分子BMP4を糖尿病マウスで抑制した結果、糸球体病変が抑制されることも確認できており、その分子メカニズムを検討中の段階である。
今年度は、まず、前年度確立したタモキシフェン誘導Smad1全身欠損マウスに糖尿病を惹起した腎病変の解析を継続する。先述のBMP4抑制の実験結果も解析を完成させる。前年度まではI型糖尿病モデルマウス(ストレプトゾトシン投与マウス)のみの検討であったので、II型糖尿病マウスに対する治療効果も合わせて検討する必要がある。今年度はdb/dbマウスに対するBMP4阻害実験をおこない、腎病変を解析する予定である。
タモキシフェン誘導Smad1全身欠損マウスの作成には2種類の遺伝子改変マウス(Smad1 flox/floxマウスと全身Cre-ERT2発現マウス)の掛け合わせが必要であるが、そのマウスの産仔数が期待度通りより少なく必要数をそろえることが出来なかったため。引き続きタモキシフェン誘導Smad1全身欠損マウスの作成し必要数を確保するとともに、事前の計画通り、Smad1シグナルの上流分子であるBMP4の受容体ALK3の阻害薬を用いて、糖尿病性腎症におけるBMP4-ALK3-Smad1シグナルの役割検討を開始する。
すべて 2912 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
J Clin Exp Hematop.
巻: 53(1) ページ: 69-77
Kidney Int.
巻: 83(2) ページ: 335
doi: 10.1038/ki.2012.361