研究課題
透析導入原疾患の第一位を占める糖尿病性腎症は大きな医学的・社会的負担となっており、新規治療法の開発は喫緊の問題である。糖尿病性腎症は進行性であるものの、集学的治療で回復しうることが報告されており、進行性を形成させる原因をつきとめることができれば新たな治療法につながる。慢性炎症や線維化による進行性の病態は、細胞の形質変化を持続させるエピジェネティック異常が原因となって生じることが明らかになってきた。糖尿病性腎症でのエピジェネティクス異常を平成24年度までの基盤C研究「エピジェネティック異常を標的とした新規慢性腎臓病治療法の開発」によって、糖尿病性腎症モデルのdb/dbマウスの腎臓では、nox4遺伝子にDNAメチル化異常が生じていることを見出した。しかし、DNAメチル化プロフィールは組織間や組織構成細胞毎に全く異なるため、本研究では、糸球体分画、近位尿細管細胞を分取し、分画ごとに糖尿病で生じるDNAメチル化異常を明らかにした。まず正常マウス近位尿細管細胞のDNAメチル化状態を非尿細管細胞と比較することにより近位尿細管細胞特異的なメチル化状態を検討したところ、転写因子、糖脂質代謝酵素、など近位尿細管の主要な機能を担う遺伝子が脱メチル化していることが明らかになった。これらの遺伝子はDNAメチル化レベルで近位尿細管細胞での発現が厳密にコントロールされていると考えられた。この所見をもとにして糖尿病マウスと比較したところ、糖尿病によりアンジオテンシノーゲンやHGF受容体などの遺伝子にDNAメチル化異常が生じている事がわかった。エピゲノム異常は血糖治療に抵抗を示し、糖尿病性腎症の進行の維持に関わると思われた。異常メチル化を示す遺伝子の中には腎臓での機能が未報告のものが含まれていた。このうち核内受容体で腎臓障害に関わるものがあることがわかり、腎症進行治療の新たな対象として検討を進めている。
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