ヒトES細胞から尿細管上皮細胞への分化誘導法の確立と純化、そして得られた細胞が尿細管上皮細胞としての特徴を有しているかについて検討した。腎尿細管細胞は、中胚葉由来の細胞であり、中間中胚葉、後腎間葉および上皮化の過程を経て出現する。GSK-3β 阻害剤を用いて中胚葉への分化を促進させ、中間中胚葉への誘導を促進する増殖因子、培養条件を検討し、各誘導段階での遺伝子発現を解析するとともに、尿細管特異的なマーカーである、Kidney-specific protein(KSP)の発現量を検討した。分取したKSP陽性細胞が尿細管細胞としての特性を有するかを検討するために三次元培養を行い、尿細管管腔様の構造を構築するかを次の2通りの方法で検討した。Wnt-4シグナルを恒常的に分泌するNIH3T3-Wnt4細胞をマイトマイシン処理し、その上にマトリゲルを敷き、三次元培養条件を作成した。誘導したヒトES細胞を、マトリゲル上に撒き培養した。また、誘導したヒトES細胞を、胎生11.5日目から抽出した後腎間葉の細胞と共培養し、尿細管管腔構造に取り込まれるかを検討した。GSK-3β 阻害剤で3日間培養すると、未分化マーカーであるOct3/4は速やかに低下し、中胚葉の初期のマーカーであるBrachuryが上昇することを確認した。その後、低血清培地および増殖因子を含んだ誘導培地で培養したところ、後腎間葉のマーカーであるWT-1が上昇し、やや遅れて尿細管細胞のマーカーであるKSPも上昇した。誘導したヒトES細胞をNIH3T3-Wnt4細胞とマトリゲルを介して24時間共培養した。KSP陽性細胞は管腔様の構造を構築し、一部AQP1、AQP2、megalinなどの尿細管マーカーを発現することを確認した。また、ex vivoでマウス胎児由来の後腎間葉細胞を共培養すると、KSP細胞が尿細管様の構造に取り込まれることを確認した。現在、さらなる検討を加えている。今後はヒトiPS細胞を用いた検討を行い、医薬応用への基盤としたい。
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