研究課題/領域番号 |
25461253
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
武藤 重明 自治医科大学, 医学部, 教授 (40190855)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | claudin-15 / 腎血管内皮細胞 / タイトジャンクション / 細胞間短絡路 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、腎臓の血管内皮細胞のみに発現しているclaudin-15の水・電解質輸送における役割を、claudin-15遺伝子欠損マウスとその野生型/ヘテロ型マウスを用いて検討した。以下にその結果を示す。 (1)tail-cuff法で測定した収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍は、claudin-15遺伝子欠損マウスと野生型/ヘテロ型マウスで有意差を認めなかった。 (2)代謝ケージ内、飲水/食餌自由摂取下で2群のマウスを1日飼育し、metabolic balance studyを行った。体重は2群のマウスで有意差を認めなかった。1日当たりの尿量、便量、飲水量、食餌摂取量は、いずれも2群で不変であった。体重当たりの腎重量比は、claudin-15遺伝子欠損マウスで野生型/ヘテロ型マウスに比べ有意な増加を示した。血清クレアチニン濃度、K濃度、P濃度、クレアチニンクリアランス、尿中K排泄分画、Ca排泄分画、P排泄分画は、いずれも2群で不変であった。一方、claudin-15遺伝子欠損マウスでは野生型/ヘテロ型マウスに比べ、血清Ca濃度の有意な増加と血清Mg濃度の有意な低下を認めた。また、尿中Na排泄分画やMg排泄分画は、claudin-15遺伝子欠損マウスで有意に増加していた。以上より、claudin-15遺伝子欠損マウスでは、尿中Ca排泄の相対的低下によって高Ca血症が、また尿中Mg排泄増加によって低Mg血症が出現することが考えられた。さらに、claudin-15遺伝子欠損マウスでは、血清Na濃度は野生型/ヘテロ型マウスと比べ不変であったが、尿中Na排泄分画の増加を認めた。こうした尿中電解質排泄分画の変動に、腎臓の血管内皮細胞のみに発現しているclaudin-15がどのように関与しているのか、今後の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成25年度の途中からclaudin欠損マウスとその野生型マウスの供給元である神戸大医学部動物センターマウス飼育室で病原微生物が度々検出され、平成26年度に入っても供給の目処が立たず、自家繁殖を行う必要が生じたこと、加えて平成27年12月の大学リニューアル移転に向けた研究室の準備作業と新研究室の整備、研究室移転に伴って生じた実験装置の故障の調整に時間を要したことが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、腎臓の水・電解質輸送におけるclaudin-2、claudin-8、claudin-15の役割について研究を行ってきたが、論文作製に必要なデータが最も多いのは、主に近位尿細管に発現しているclaudin-2である。したがって、今後はclaudin-2に焦点を絞り、水・電解質輸送における役割を以下の方法で解明し、早急に論文にしたいと考えている。 (1)claudin-2遺伝子欠損マウスとその野生型/ヘテロ型マウス近位尿細管細胞間短絡路のNaとClの透過性比(PNa/PCl)のネフロン内不均一性やネフロン間不均一性が、発現しているclaudinの組み合わせによって異なることを証明するため、2群の腎皮質と髄質をclaudin-2、-10、-17の抗体を用いて染色するとともに、腎皮質と髄質の近位尿細管S1分節とS3分節を50本単離し、RNA分離後real time PCR法を用いて、claudin-2遺伝子、-10a遺伝子、-17遺伝子の発現量を測定し、2分節間、表在ネフロン/傍髄質ネフロン間、2群間で比較する。また、2群の近位尿細管S1、S3分節を表在ネフロンと傍髄質ネフロンに分け、単離・灌流し、細胞短絡路のNaとClの透過性比(PNa/PCl)を2分節間、表在ネフロン/傍髄質ネフロン間、2群間で比較する。 (2) 2群のマウスにNa欠乏食を6日間投与後、7日目に代謝ケージ内で1日飼育し、尿量、飲水量、食餌量、便量、収縮期血圧および血清と尿のクレアチニン濃度、Na濃度、Cl濃度、浸透圧を測定する。また、2日間飲水摂取制限下で2群のマウスを代謝ケージ内で飼育し、2日目の1日当たりの尿量、飲水量、食餌量、便量、収縮期血圧および血清と尿のクレアチニン濃度、Na濃度、Cl濃度、浸透圧を測定する。上記Na欠乏食や絶飲水下の2群のマウス腎よりS1分節とS3分節(表在性ネフロンと傍髄質ネフロン)を単離・灌流し、PNa/PClを2分節間、表在ネフロン/傍髄質ネフロン間、2群間で比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度の途中からclaudin欠損マウスとその野生型マウスの供給元である神戸大医学部動物センターマウス飼育室で病原微生物が度々検出され、平成26年度に入っても供給の目処が立たず、自家繁殖を行う必要が生じたこと、加えて平成27年12月の大学リニューアル移転に向けた研究室の準備作業と新研究室の整備、研究室移転に伴って生じた実験装置の故障の調整に時間を要したことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
近位尿細管に発現しているclaudin-2に焦点を絞り、claudin-2遺伝子欠損マウスとその野生型/ヘテロ型マウスを用いてclaudin-2の水・電解質輸送における役割を以下の方法で解明する。 2群のマウス腎皮質(表在性ネフロン)より、近位尿細管を糸球体と連結したS1とヘンレの細い下降脚と連結したS3の2つの分節に分け単離・灌流後、血管側にNaポンプ阻害薬ウアバイン存在下で尿細管腔内外に50mMのNaCl濃度勾配を作成した時の拡散電位を測定し、細胞間短絡路のNaとClの透過性比(PNa/PCl)を算出する。2群の腎髄質(傍髄質ネフロン)より単離した近位尿細管S1分節とS3分節を灌流し、上記条件下でPNa/PClを算出する。次に、上記近位尿細管分節を50本単離し、RNA分離後real time RT-PCRを行い、陽イオン選択性の性質をもったclaudin-2と、陰イオン選択性の性質をもったclaudin-10a、-17の発現量を測定し、上記機能解析の結果との関連性を考察する。
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