研究課題/領域番号 |
25461262
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
中西 健 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70217769)
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研究分担者 |
倉賀野 隆裕 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (60411998)
蓮池 由起子 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (80399146)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腎性貧血 / 鉄 / ESA / 骨髄細胞 / フラタキシン |
研究実績の概要 |
最近の国際的な流れとして、腎性貧血治療において鉄補充を優先して行うことが薦められているが、本邦ではerythropoiesis stimulating agent(ESA)と同時に鉄投与を行い、「必要最低限の鉄貯蔵状態」で治療することが通例である。我々は、腎不全状態では鉄の細胞への囲い込みが種々の合併症を惹起することを示している。鉄調節ホルモン「hepcidin」の発見により、過量の鉄貯蔵量はむしろ鉄の再利用を妨げることが考えられ、動物実験により鉄貯蔵量のどのような状態が生体に安全で、かつ貧血治療に役立つかを明らかにする必要がある。 本研究では「必要最低限の鉄貯蔵状態」と「鉄過剰(充足)状態」のいずれの条件の腎性貧血治療が、1. 造血に対して有効か、2. 生体の酸化ストレスの有無に相違があるかを判定することが最終目標である。 昨年度に引き続きC57BL/6Jマウスを用いて5/6腎摘マウスの作成を行ってきたが、腎不全状態が不安定であるため、アデニン投与による腎不全マウス作成を試みた。アデニン投与量の調節により安定した腎不全・腎性貧血を惹き起こす腎不全マウスを作製でき、鉄代謝および赤血球造血を観察できる腎不全状態の動物モデルが確立できた。このモデルを用いて腎不全状態における 心臓、腎臓、肝臓、脾臓における鉄取り込み蛋白(divalent metal transporter1 (DMT1), transferrin receptor (TfR) )や鉄汲みだし蛋白(ferroportin1 (FPN1)の PCR法によるmRNAレベルでの発現検討が可能となった。また、昨年は不安定であったflow cytometry(FACS)を用いた骨髄細胞の成熟度の検討でも、習熟により安定して赤血球分化の程度が判定できるようになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き、5/6腎摘による腎不全モデルマウスを作成し、採血・尿検査、PCRや FACSを中心に行った。しかし習熟しても麻酔や手術による侵襲、腎臓サンプルの採取困難などの問題が持続するため、アデニン投与による腎不全マウスモデル(CRF-M)の作成を試みた。飼料中のアデニンの 割合や投与日数を調整し、投与開始約8週間以降はアデニン投与マウスにおいて BUN120-140mg/dLの高窒素血症とHb7-9g/dL程度の貧血を安定して認め、今後はこのモデルを用いた研究を行うことにした。但しコントロールマウスと(C-M)比してCRF-Mは体重増加が乏しく、皮膚の状態も乾燥し、脱毛が著しかった。 C-MとCRF-Mの心臓、腎臓、肝臓、脾臓を用いて Real time PCR でFPN1、DMT1、TfR、Hepcidin (Hamp)、zinc finger protein (ZFP) そしてミトコンドリア蛋白 frataxin (FRX)の発現をみたところ、C-Mに比して CRF-Mでは心臓の FPN1とDMT1の発現低下、腎臓のFPN1、TfR、ZFPの発現亢進、肝臓のHampの発現亢進の傾向を認めた。腎不全状態では肝臓でのhepcidin発現が亢進していたが、脾臓での鉄輸送蛋白発現は変化がなかった。 FACSを用いた骨髄細胞の検討では、Ter119およびCD71の発現から、C-MとCRF-Mの間で前赤芽球から 成熟赤血球までの各分画の割合に有意差を認めなかった。FACSによる骨髄細胞での apoptosisの亢進も認めなかった。従来考えられてきた エリスロポエチン低下により「骨髄での赤芽球系細胞の成熟低下」の説が必ずしも証明されず、貧血メカニズムに関してエリスロポエチン濃度測定・血清鉄・フェリチン濃度なども含めメカニズム解明の必要性が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
腎不全病態における骨髄細胞での赤芽球系成熟に C-MとCRF-Mに差がないことから、まず貧血が惹起されるメカニズムを解明する必要がある。骨髄細胞だけではなく脾臓においても造血系を検討するため、FACSを用いた赤芽球系細胞の成熟度の検討を行う。骨髄・脾臓造血系細胞総数・CFU-E・BFU-E細胞数の差(前赤芽球以前の分化における問題)、末梢での赤血球の分解亢進等造血系以外の要因も検討する。またPCR法を用いて造血系における鉄輸送蛋白(DMT1, TfR, FPN1)、ヘム合成の律速段階酵素である Aminolevulinic acid synthase (ALAS)などの発現検討を行う。腎臓においてはエリスロポエチンの発現をCRF-Mにおいて検討する。さらに血清鉄、フェリチン、 ヘプシジンに加えて サイトカイン、酸化ストレスマーカーの測定により鉄代謝・慢性炎症の観点から原因を究明していく。骨髄・脾臓・肝臓において病理組織学的検討(鉄 染色、免疫組織染色)を行う予定である。また、CRF-Mに対し、エリスロポエチン製剤(ESA)投与や正常食、鉄欠乏食、鉄過剰食負荷を行った条件を加え、赤芽球系成熟などの上記実験の結果に変化があるのかも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額に相当する必要な試薬等がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の交付金と合わせて、腎性貧血マーカーを測定する試薬等を購入する。
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