研究課題/領域番号 |
25461276
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小池 春樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (80378174)
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研究分担者 |
祖父江 元 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20148315)
飯島 正博 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座講師 (40437041)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 免疫性自律神経ニューロパチー / ギランバレー症候群 / 自己免疫性自律神経節障害 / 急性自律性感覚性ニューロパチー / 急性自律性感覚性運動性ニューロパチー / ニューロパチー |
研究実績の概要 |
免疫性自律神経ニューロパチーは,ギランバレー症候群様の急性または亜急性の経過で自律神経障害が出現し,症状が完成する症例が多く,感覚障害と筋力低下の合併の程度によって,主に,1.自律神経障害のみを呈するタイプ,2.感覚障害を合併するタイプ,3.感覚障害と運動障害を合併するタイプに分けられることが明らかになった.1に関しては,血清中の抗ganglionic acetylcholine receptor (AChR) 抗体が陽性となる,自己免疫性自律神経節障害(autoimmune autonomic ganglionopathy;AAG)が含まれることが明らかになり,抗体陽性例は広汎で重篤な自律神経障害を呈する傾向があったのに対し,抗体陰性例では限局した自律神経障害をきたす傾向があった.また,AAGの亜型として,選択的なコリン作動性の末梢性自律神経障害を呈する症例も存在し,このような症例においても抗ganglionic AChR抗体は陰性であった.一方、2のタイプは,急性自律性感覚性ニューロパチー(acute autonomic and sensory neuropathy;AASN)と呼ばれる急性の経過で重度の自律神経障害をきたす例が多く,病態と関連した自己抗体は見いだされなかったが,先行感染後に単相性の経過をとる例が多いことから免疫性の病態が関与していることが示唆された.また、3のタイプに関しては,急性自律性感覚性運動性ニューロパチー(acute autonomic sensory and motor neuropathy;AASMN)と考えられる症例が少数ではあったが見いだされ,AASNと同様に,先行感染後に単相性の経過をとる例が多いことから免疫性の病態が関与していることが推測された.病理所見は3病型とも神経節の障害を示唆するものであった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我が国における免疫性自律神経ニューロパチーには,少なくとも,1.自律神経障害のみを呈するタイプ(AAG),2.感覚障害を合併するタイプ(AASN),3.感覚障害と運動障害を合併するタイプ(AASMN)の3病型が存在することが明らかになった.抗ganglionic AChR抗体の有無に関しては現在までに48例で解析しており,陽性例は自律神経障害のみを呈するタイプの一部で見いだされた.AAGは急性発症で単相性の経過をとるといわれてきたが,年単位の慢性の経過をとる例もあり,神経変性疾患の一種である純粋自律神経失調症(pure autonomic failure; PAF)類似の症例でも免疫治療に反応する例が含まれていることが示唆され,日常診療の場において重要なメッセージとなると考えられた.また,免疫性自律神経ニューロパチーの腓腹神経生検および剖検の検体の末梢神経系における有髄線維,無髄線維,後根神経節および交感神経節細胞の検討により,AAGでは自律神経節が,AASNでは感覚神経節と自律神経節が病変の主座であることが推測された.AAGでみられた抗ganglionic AChR抗体は自律神経節におけるシナプス伝達を阻害すると考えられてきたが,病気が長くなるに従って不可逆的な神経細胞の脱落をきたすことが今回の病理学的検討で示され,早期診断および早期治療の重要性が示唆された.臨床的にも長期経過例において自律神経障害と感覚障害,特に後者が残存する例が多いことが明らかとなり,病理所見を支持する結果となった.治療に関しては,単相性の経過をとる例が多く治療効果の判定が困難であったが,経静脈的免疫グロブリン療法等の免疫治療が有効な例が急性発症例のみならず慢性進行例でもみられた.
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今後の研究の推進方策 |
免疫性自律神経ニューロパチーの病理学的検討により,AAGでは自律神経節が,AASNでは感覚神経節と自律神経節が病変の主座であることが推測された.AAGでみられる抗ganglionic AChR抗体は自律神経節の神経細胞自体に反応することが示唆されるが,抗ganglionic AChR抗体陰性例においても,神経節細胞自体に反応する抗体の検索が重要であることが推測された.このような観点から免疫性自律神経ニューロパチーにおける新規の自己抗体の探索を行う.具体的には,現在までに保存された免疫性自律神経ニューロパチー患者の血清を使用して検討する.まず,マウス後根神経節の可溶化成分を用い一次元および二次元電気泳動しニトロセルロース膜に転写後,患者血清および健常者血清を用いウエスタンブロット(WB)法を行い,患者血清と特異的に反応するバンド・スポットを検出する.次に,自己抗体が認識する蛋白質を同定するため,上記と同様の方法で泳動したゲルを蛋白染色し,二次元WBの結果を参照してスポットを切り出し,トリプシン消化後、MALDI-TOF型もしくはイオントップ型質量分析装置による分析を行い,蛋白質の同定を行う.一方,精製した患者IgGとマウスのおよびヒトの各種神経組織(大脳・脳幹・小脳・脊髄・DRG・末梢神経など)を用いた免疫組織化学を行い,マーカーとなる既知の抗原との二重染色により,自己抗原の組織内分布を解析する.同様の方法をマウス自律神経節と脊髄前角を用いて施行し,自律神経障害のみに関連した抗体,自律神経と感覚障害に関連した抗体,自律神経と感覚と運動障害に関連した抗体を探索する.抗体の探索と並行して,AAG,AASN,AASMNの症例の蓄積と臨床病理像の解析を継続し,疾患単位や臨床病理像のスペクトラムをより詳細に明らかにするとともに,免疫治療に対する反応性についても検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた患者検査IgG4の支払いが平成27年度になる。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度より翌年度にかけて予定している患者検査への支払いに充当する。
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