研究課題
本年度は,ロテノン誘発ドパミン神経障害への中脳アストロサイトにおけるNFAT関連分子の関与について検討した.中脳アストロサイトあるいは線条体アストロサイトにロテノン(1-5 nM)を6,15,24時間処置し,アストロサイトにおけるのNFATc3発現を免疫染色で検討した.線条体アストロサイトではロテノン処置によるNFATc3発現に変化はみられなかったが,中脳アストロサイトではロテノン処置15-24時間後で有意なNFATc3発現細胞の増加がみられた.また,中脳あるいは線条体アストロサイトをロテノンで48時間処置し,NFATc3により制御されるサイトカイン (IL-2, Fas ligand)の細胞外分泌量をELISAで測定したが,IL-2, Fas ligandはともに細胞外への分泌量が低く,ロテノンによる影響はみられなかった.われわれはこれまでに強力な抗酸化作用を示す金属結合タンパクであるメタロチオネインがロテノンによるドパミン神経障害に対して保護的にはたらくことを見出している.そこで,中脳あるいは線条体アストロサイトをロテノンで48時間処置し,細胞外に分泌されたメタロチオネイン量をELISAで測定した.その結果,線条体アストロサイトではロテノン処置により全く変化がなかったのに対して,中脳アストロサイトではロテノン処置で細胞外メタロチオネイン量が有意ではないが減少する傾向がみられた.この結果より,中脳アストロサイトではロテノン処置によりアストロサイトの機能不全が起こっている可能性が示唆された.ロテノンはミトコンドリアのcomplex I阻害作用を有することから,中脳あるいは線条体アストロサイトをロテノンで24-48時間処置し,ミトコンドリアでのATP生成量を測定した.その結果,中脳および線条体アストロサイトともにロテノン処置によるATP生成量の減少はみられなかったことから,アストロサイトでのロテノン処置によるミトコンドリア障害は起こっていないと考えられた.
2: おおむね順調に進展している
本年度は,ロテノン誘発ドパミン神経障害をもたらすアストロサイト発現因子としてわれわれが見出したNFATc3のアストロサイトにおける発現変化についてロテノン処置後経時的に検討した.その結果,線条体アストロサイトではロテノン処置によるNFATc3発現に変化はみられなかったが,中脳アストロサイトではロテノン処置により有意なNFATc3発現誘導がみられた.また,アストロサイトのロテノン処置で,細胞外に分泌されたメタロチオネイン量が線条体アストロサイトでは全く変化がなかったのに対して,中脳アストロサイトでは有意ではないが減少する傾向がみられ,中脳アストロサイトのロテノン処置による機能不全の可能性が示唆された.これにより,ロテノン誘発ドパミン神経障害を規定しうる因子として中脳アストロサイトにおけるNFAT関連分子さらには抗酸化分子メタロチオネインを見出した.また,これらの知見は脳部位特異性があることから,次年度の腸管・嗅球における神経障害への関与が期待できる.
SDラット胎仔の腸管,新生仔の嗅球から初代培養神経・アストロサイト(様細胞)共培養系をそれぞれ作製し,ロテノンを24-48時間添加し,腸管神経叢および嗅覚二次ニューロン(僧帽細胞および房飾細胞)の神経障害を免疫染色により経時的に評価する.また,腸管あるいは嗅球アストロサイト(様細胞)におけるロテノン処置によるNFATc3の核移行性およびNFAT関連分子の発現変化について検討し,NFATc3発現の部位特異性について検討する.さらに抗酸化分子メタロチオネインのロテノン毒性への関与についても検討する.
平成26年度は嗅球および腸管の初代培養実験ではなく,中脳および線条体の初代培養での詳細な検討を行ったため,それほど多くの妊娠ラットを必要としなかった.そのため妊娠ラットに必要として計上していた経費の一部にあたる311,184円を次年度に使用することとなった.
次年度平成27年度の請求研究費とあわせて,動物実験,培養実験のための消耗品費として使用する予定である.
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