多発性硬化症の新規治療法開発のため、神経保護的作用を持つ細胞、特に多発性硬化症の病変で活性化しているミクログリアに着目し、その神経保護効果を最大限に引き出すことでこれまで治療できなかった慢性進行型多発性硬化症の治療法開発を目指して研究を行った。 まず、多発性硬化症の原因である末梢での免疫細胞活性化について、マウスにおける末梢のアレルギー反応が多発性硬化症モデルの症状に影響するか検討したところ、気管支喘息を誘発したマウスでは多発性硬化症の症状が著明に増悪した。同マウス脊髄ではグリア細胞の著明な活性化が見られた。気管支喘息マウスから抽出したミクログリアのメッセンジャーRNAを解析したところ、血管内皮活性化因子ET-1の受容体EDNRBの著明な活性化が見られた。これを踏まえて、EDNRBの阻害薬を予防的投与したところ、気管支喘息のない多発性硬化症モデルマウスよりも症状が軽減したばかりか、通常のマウスよりもさらに症状の軽減が見られた。このことは、末梢の炎症の有無にかかわらず、グリア細胞のEDNRBを介した活性化が、多発性硬化症の症状悪化に深く関わっていることを示唆していた。これによりEDNRBアンタゴニストが、多発性硬化症の新規治療薬として非常に有効である可能性が考えられた。 EDNRBアンタゴニスト(BQ 788)は製品化されているため、今後の臨床開発についても速やかに行うことができると考えている。
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