研究課題/領域番号 |
25461285
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
出雲 周二 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 教授 (30143811)
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研究分担者 |
古川 良尚 鹿児島大学, 医歯学域医学部・歯学部附属病院, 講師 (00359978)
久保田 龍二 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (70336337)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 神経病理学 / ウイルス / 認知障害 / 神経免疫学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はcART治療下に免疫不全の進行とは独立して遷延性に発症進行する行動認知障害としてのHANDsについて、これまでの国立感染研との共同研究体制のもとでサルエイズモデルを開発し、そのサルエイズモデル、ヒト剖検脳組織をもちいて発症の分子病態を解明することである。 これまでのサルエイズモデルの神経病理学的解析により、SIVenv/MERTに加えて、強病原性SIVO302-2接種サルが短期間で広範に多核巨細胞を伴う典型的SIV脳炎が生じること、マクロファージ指向性SIV接種サルの感染早期に脳血管周囲マクロファージ、ペリサイトに既にウイルス感染が生じていることを見出した。26年度はSIVO302-2接種サルの凍結脳組織を入手し、炎症性病変局所におけるウイルス抗原分子と宿主免疫応答の分子病態解析を開始した。 大脳皮質の変性病変については、アストロサイトに特異的に発現している接着分子connexin43の免疫組織学的検索をすすめ、EAAT2やAQP4と同様に低下傾向を認めた。エイズ脳におけるアストロサイトの一次的機能低下、すなわちアストロサイトパチーを示唆する所見と思われ、EAAT2、AQP4、connexin43の相互関係と、大脳皮質神経細胞死との関連を検索している。さらに中国アモイ大学Xing教授との共同研究として、大脳皮質にSIV-Tatを介したmeninの発現亢進と神経細胞のアポトーシスにTGF-βが関与していることを明らかにした。 ウィーン大学剖検脳を用いて、昨年度、サルで見出されたEAAT2、AQP4の発現低下について解析し、サルと同様にEAAT2とAQP4は比例しての発現が低下していることを明らかにした。神経細胞のアポトーシスも観察され、26年度はエイズサル脳と同様に神経細胞のmenin発現が観察され、ウイルス抗原Tatを介した神経細胞死との関連を検索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は抗ウイルス療法のもとでHIV感染症の新たな問題となっているHANDsについて、サルエイズモデル、ヒト剖検脳組織をもちいて発症の分子病態を解明することである。これまでの国立感染研との共同研究体制を継続するとともに、中国アモイ大学神経科学研究所のXing教授との共同研究も継続した。これまでに蓄積されたサルエイズモデル、ヒト剖検脳を用いた病理組織解析により、強病原性SIVO302-2接種サルに短期間で広範に多核巨細胞を伴う典型的SIV脳炎が生じることを見出した。炎症性病態の有力な動物モデルとなる可能性が示し、凍結脳組織を入手し、病変局所の分子機構の解析を開始した。また、SIV感染早期に脳血管周囲では既にウイルス感染が生じていることを見出した。大脳皮質の変性病変についても、アストロサイトに特異的な水チャンネル蛋白質で脳血管関門の調節にかかわっているAQP4もEAAT2の低下に比例し、アストロサイトの一次的機能低下を示した。さらに中国アモイ大学Xing教授との共同研究で、皮質神経細胞の変性機序についても解析が進み、神経細胞死に可溶性Tatとmeninが関与していることを明らかにした。ヒト剖検脳の解析はウィーン大学剖検脳を用いて、サルで見出された大脳皮質病変と同様の変化がヒトHIV感染者の脳組織でも観察されることを示した。これらの成果について複数の英文論文として投稿したが、採択に至らず、査読者の指摘について追加の検索を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
SIV感染サルを用いて、大脳皮質変性病態の解析は大きく進展した。今回、炎症性病態の有力な動物モデルとして、強病原性SIVO302-2接種サルに短期間で広範に多核巨細胞を伴う典型的SIV脳炎が生じることが示され、このモデルを用いて炎症性病態の解析を開始しており、SIV脳炎病巣での遺伝子発現と糖鎖発現の網羅的・経時的解析をすすめ、病巣形成に関与する分子の経時的変化を明らかにする。HIV感染者の神経学的追跡と剖検例を用いたHANDs発症病態の解析については、ウィーン大学から提供された剖検脳の神経病理学的解析を継続してすすめるとともに、本邦症例についても分担研究者の古川がHIV感染症自験例の診療に従事しており、継続的に神経症状の有無を詳細にチェック、特に、ごく軽度の行動認知障害を検出するための高次脳機能評価法が開発され、それに基づいて長期フォローアップ体制ができている。得られた臨床データについても、HIV脳症の神経症状の特徴や程度を解析、評価し、末梢血CD4+細胞数血中ウイルスRNA量より免疫不全の程度を評価する。死亡例は神経所見の有無に関わらず積極的に剖検を行い、通常の病理組織検索に加え、脾臓、リンパ節、腸管組織、扁桃などのリンパ組織材料について、細胞表面マーカーを用いた免疫組織化学による濾胞崩壊の程度の評価、ウイルス蛋白の免疫組織化学、provialDNAを標的としたinsituPCR法、ウイルスRNAのinsituhybridization法を用いて組織中のウイルス感染細胞の局在と量を検索し、免疫不全の進行の程度を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国立感染研の森主任研究官との共同研究としてすすめている、SIVサルエイズモデルを用いた脳炎病巣微小環境の免疫病理学的解析に必要な、米国TulaneNationalPrilnateCenterで保存されている脳炎発症サルの脳凍結組織標本の入手が諸手続の関係で遅れた。現在、凍結組織の病理所見について基礎的解析が開始されたところで、次年度に分子病態に関する免疫組織学的解析を開始することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
SIVサルエイズモデルを用いた脳炎病巣微小環境の分子病態解析の物品費と研究打ち合わせ旅費として使用する。
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