研究課題
基盤研究(C)
近年、免疫疾患の病態形成において「制御性T細胞(Treg)の可塑性」の重要性が注目されている(Zhou, Nat Immunol 2009)。これは一部のTregが置かれた環境によりFoxp3発現や抑制機能を失い,他のヘルパーT細胞へ "分化転換"することを意味するが、この「Tregの可塑性」がどのような原因によって生じるかという点については、いまだ不明である。HTLV-1関連脊髄症(HAM)は、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)感染者の一部に発症する脊髄の慢性炎症性疾患であるが、最近、我々はHAM患者においてHTLV-1の機能分子Taxの作用によってTregが可塑的に変化したと考えられる新規の異常T細胞を発見した。そこで本研究では、Foxp3を発現するTregだけにHTLV-1 Taxを発現させた“Treg特異的Tax発現マウス”を用いることで、HAM患者において見出されたTreg由来異常T細胞の発生機構や病原性について個体レベルで検討することを目的とした。今年度は、“Treg特異的Tax発現マウス”の表現型を主に検討した。その結果、Foxp3発現細胞すべてにTaxを発現したマウスは、6週齢以内に全例死亡した。一方、Foxp3発現細胞の一部でのみTaxを発現したヘテロマウスは、両耳介の皮膚炎と共に、尾の皮膚潰瘍、両耳介のレイノー現象や壊疽といった血管炎を疑わせる一定の表現型が認められた。このことから、本来Tregとして免疫を制御する働きを有するFoxp3発現細胞がTaxを発現することによって、個体レベルで炎症病態を惹起するような病原性が発揮されることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予想を超えて、我々が独自に作製した“Treg特異的Tax発現マウス”は、炎症病態を反映した一定の表現型がspontaneousに認められた。したがって、本来Tregとして免疫を制御する働きを有するFoxp3発現細胞がTaxを発現することによって、個体レベルで病原性を発揮することが明らかとなった。ただし、この現象を裏付けるためのTregの評価がまだ実施できていないため、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と判断した。
今後は次の3つの方向性で本研究を進めることとする。1)“Treg特異的Tax発現マウス”におけるTreg細胞の評価:当該マウスのTregがIFN-γを産生するような炎症性の異常T細胞に変化しているか、またTregとしての形質を保持しているか等の評価を実施する。当該マウスのFoxp3発現細胞はTax遺伝子を発現すると同時にRFP遺伝子も発現する。そのため、当初の予定では「Treg由来Tax発現T細胞」の表現型を明らかにするために、RFP陽性細胞を単離する予定であったが、予想に反して脾細胞中にRFP陽性細胞を認めなかった(Tax及びRFPのmRNA発現レベルは低値だが、検出されている)。したがって、その対応策として、RFP陽性細胞の代わりにCD4+CD25+(可能であればCD127low) cellsを単離し、その表現型を解析するという計画へ変更する。2)“Treg特異的Tax発現マウス”の病理学的検討:当該マウスはその肉眼的所見から血管炎の動物モデルとなる可能性を有する。そのため、病理学的解析を実施し、血管炎の有無と血管炎があった場合はその種類を明らかにする。3)“Treg特異的Tax発現マウス”へEAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)モデルの適用:当該マウスにEAEを誘導し、Treg由来の異常T細胞を脊髄へ侵入させることによって、HAMで認められる脊髄の慢性炎症を引き起こすか否かを検証する。評価はEAEの臨床症状スコアの経時的変化、マウス脊髄の病理組織検査および免疫組織染色によって行う。
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