研究課題/領域番号 |
25461305
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構長崎川棚医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
中根 俊成 独立行政法人国立病院機構長崎川棚医療センター(臨床研究部), その他部局等, 部長 (70398022)
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研究分担者 |
樋口 理 独立行政法人国立病院機構長崎川棚医療センター(臨床研究部), その他部局等, 研究員 (50361720)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自律神経疾患 / 免疫異常 / 自己抗体 |
研究実績の概要 |
昨年度までの段階でルシフェラーゼ免疫沈降システム(luciferase immunoprecipitation systems, LIPS)による抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体(以下、抗gAChR抗体)の測定系は確立しており、この受容体のα3サブユニットに対する抗体の測定系、β4サブユニットに対する抗体の測定系についてそれぞれ既製品抗体による確認も終了した。この抗体測定系はRIを使用せず「安全」であり、カイアシルシフェラーゼを用いた「高感度」で「定量性」のある比較的「簡便」であることを特徴とする。そして陽性コントロール測定によってサンプル測定値を除してantibody indexを算出する方法で経時的評価も可能である。 サンプルの収集も順調に進んでおり、日本全国より自律神経障害を呈した神経疾患の症例から採取した血清を送付いただいた。平成27年3月までの段階で712検体・539症例の血清を当施設に凍結保存している。これまでの段階で90症例の陽性症例を把握している。その内訳としてはα3サブユニット・β4サブユニット両方に対する抗体陽性は27症例、α3サブユニットに対してのみ抗体陽性は53症例、β4サブユニットに対してのみ抗体陽性は10症例である。 これまでに本抗体陽性の自己免疫性自律神経節障害(以下、AAG)は41症例把握しており、その平均年齢は59.6歳で、男性にやや多い傾向がある。初発症状としては起立性低血圧が圧倒的に多く、ほかに消化管障害・排尿障害をきたすなど広範な自律神経障害が臨床的特徴である。発作性咳嗽やアカラシアなども頻度は多くないが、本抗体の関与が示唆される病態と捉えている。リウマチ・膠原病などの自己免疫疾患の併発が多く、内分泌疾患を呈する症例や悪性腫瘍との関連の可能性(いわゆる傍腫瘍性神経症候群)を病態として考えるべき症例も存在していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究ではすでに自己抗体の測定系樹立に成功し、症例の集積を順調に行えていることから、当初の計画通りと考えていた。しかし最終年度に予定していた計画の達成と論文報告を平成26年度の時点ですでに達成しており、上述の通り「当初の計画異常に進展している」と判断した。 論文報告は「Clinical features of autoimmune autonomic ganglionopathy and the detection of subunit-specific autoantibodies to the ganglionic acetylcholine receptor in Japanese patients」としてPLoS Oneにオンライン掲載されている(平成27年3月)。 内容としては抗gAChR抗体測定系確立、日本におけるAAGの臨床像解析である。これまでに本疾患の日本からの報告は症例報告レベルのものがほとんどであったが、日本で初めて本抗体の測定系が樹立したことによって日本における実態の解明につながったと考える。一次性自律神経ニューロパチーにおけるこの自己抗体の陽性頻度は約50%とされていたが、日本における陽性頻度も48%であり、これまでの報告と合致していた。初発症状としては起立性低血圧が圧倒的に多く、ほかに消化管障害・排尿障害をきたすなど広範な自律神経障害が臨床的特徴である。発作性咳嗽やアカラシアなども頻度は多くないが、本抗体の関与が示唆される病態と捉えている。AAGではリウマチ・膠原病などの自己免疫疾患の併発が多く、内分泌疾患を呈する症例や悪性腫瘍との関連の可能性(いわゆる傍腫瘍性神経症候群)を病態として考えるべき症例も存在していることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに症例・血清の収集を促進していきたいと考えている。 またAAG以外の自律神経障害をきたす疾患病態において本抗体が陽性となることを経験している。これまでの抗体陽性症例のうち49症例がAAG以外の疾患となるが、例えばニューロパチー、脳症脳炎における本抗体陽性の意義を今後は検討していきたい。前者ではAAGの感覚障害をどう捉えるか、さらには疾患概念の再考につながり、後者はAAGの中枢神経症状(精神症状など)の発現機序解明だけではなくニコチン性アセチルコリン受容体の局在やサブユニットの多様性の確認が主たる作業である。そこにはこの抗体の病原性という免疫病態の根幹への関与の解明、測定系としての感度・特異度改善に向けたチューンアップなどの課題につながってくる。まずは上述の49症例に関する臨床像の解析を綿密に行っていう方針を策定している。
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備考 |
当施設の臨床および研究における取り組みを紹介し、抗体測定についても案内している。抗体測定に関する書式のダウンロードはこのHPより可能となっている。またフェイスブックページもあり、情報発信に努めている。
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