研究概要 |
millisecondの範囲の時間認知には主として小脳が、1秒以上の時間認知には主として大脳基底核が関わるとする報告がある。本年は時間の長さにより認知の仕方が異なるかを検討した。健常成人20名に、二つの長さの音を順番に提示し、その長短を判断する課題を作成し行わせた。第1提示音(S1)の長さはセッション内で400, 600, 800, 1000, 2000, 3000, 4000msいずれかに固定し、第2提示音(S2)の長さを試行ごとに変化させた。S2の提示終了後、S1とS2の長さの長短を判断させ、長いと考えた音に対応するボタンを押させた。各S1・S2の組み合わせについて、ボタン押しの正答率と反応時間(RT)を検討した。S1が400-2000msの間では、正答率はS1、S2の長さの差が短いほど低く、差が大きくなるほど高くなった。RTもS1とS2の長さの差が最小の時に最も長く、それが増すにつれて減少した。短いS1(400-1000ms)では、S1より短いS2の値で正答率が最も低くなり(時間の過小評価)、逆に長いS1(2000ms以上)ではS1より長いS2の値で正答率が最も低くなった(時間の過大評価)。しかしS1が3000-4000msになると、S1、S2の長さの差が変化しても、正答率がそれ程急峻に変わらなくなる傾向がみられた。両群でS1・S2の時間差が小さくなるにつれ、正答率が低下しRTが増加したことは、S1、S2の時間差を判断するのが困難になることを反映すると思われた。しかしこの傾向はS1の長さが長くなるにつれてはっきりしなくなってくることから、millisecondと1秒以上の時間認知には異なる情報処理が関わる可能性がある。以上の課題をパーキンソン病など基底核疾患、脊髄小脳変性症など小脳疾患患者における結果と比較することにより、さらに病態の解明がなされることが期待される。
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