研究課題
基盤研究(C)
インスリン分泌を機能とする膵臓β細胞は単一細胞では分泌応答が極度に減弱しており、β細胞凝集体である膵島を構成することで必要に応じたインスリン分泌が発揮されるが、その制御メカニズムは不明である。本研究では、その高度な機能制御機構の一つをβ細胞間のギャップ結合が担っていると想定し、膵β細胞におけるギャップ結合を介した情報連絡メカニズムを明らかにする。まず、本来β細胞に内在していない刺激・応答システムを導入することにより隣接した細胞へのシグナル伝達を直接的に解析するため、細胞間伝達シグナルを発信する細胞(A細胞)と受容する細胞(B細胞)をβ細胞株MIN6細胞に遺伝子導入することにより作製した。A細胞刺激物質によりA細胞でインスリン分泌が増強されること、またB細胞はグルコース刺激に応じてインスリンと相関的にモニター分子が分泌されることを確認した。また、すでに確立している擬膵島作製法を用いてA細胞とB細胞を混合培養して擬膵島を作製し、細胞間のシグナル伝達を検討したところ、A細胞とB細胞を1:1の細胞量で混合した擬膵島で、A細胞刺激物質によりB細胞からのモニター分子分泌が確認された。A細胞とB細胞が1:4の擬膵島では、B細胞からの分泌はやや減弱し、発火する細胞が一部でも存在すれば隣接している細胞に効率よくシグナルが伝わるという仮説は否定的であった。さらに、β細胞間シグナル伝達にギャップ結合が関与しているかどうかを検討するため、A細胞とB細胞にそれぞれコネキシン36ドミナントネガティブ変異体(Cx36-G61A-FLAG)を発現させた細胞を作製し、混合擬膵島を作製し解析したところ、分泌抑制が認められなかった。このコネキシン36変異体がドミナントネガティブとして機能していない可能性を考え、別のコネキシン36変異体の効果を検討するため、現在、Cx36-C231S-FLAG発現細胞を作製中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、膵島β細胞間のシグナル伝達解析ツールの構築と擬膵島におけるギャップ結合の機能の解明を目的として研究を行った。β細胞間シグナル伝達解析ツールとして、細胞間伝達シグナルを発信する細胞(A細胞)には内因性に発現していないNaDC-1を遺伝子導入したNaDC-1安定発現MIN6細胞株を、また受容する細胞(B細胞)にはモニター分子として成長ホルモン(GH)を遺伝子導入したGH安定発現MIN6細胞株を作製した。本来刺激されないsuccinateによりNaDC-1安定発現細胞株でインスリン分泌が増強されること、またGH安定発現細胞株はグルコース刺激に応じてインスリンと相関的にGHが分泌されることが確認できたので、目的に応じたシグナル伝達解析ツールを構築することができた。また、擬膵島におけるギャップ結合の機能解析としては、コネキシン36変異体を作製し、A細胞ならびにB細胞へ遺伝子導入し機能を確認したが、ドミナントネガティブ変異体として機能していない可能性があり、新たなコネキシン36変異体を作製中であるが、これらについても順次機能解析を行う予定であり、本年度の計画は達成できているものと考える。
ギャップ結合の通過シグナル分子について、開発したシグナル伝達解析システムを用いて網羅的に探索する。すなわち候補分子をシグナル発信細胞で増加させるため、内在しない受容体やトランスポーターなどをA細胞に遺伝子導入することにより、外因性の増加機構を賦与する。その後B細胞と混合擬膵島を作製し分泌増強をスクリーニングすることにより、ギャップ結合を通過する分子を同定する。また、ギャップ結合の開閉の制御機構について、コネキシン36分子のリン酸化について解析する。分泌機能においてそれらが関与しているかどうか、ギャップ結合通過色素分子を細胞内にinjectionしてモニターする手法により検討する。一方、β細胞の増殖や死に対するギャップ結合の関与についてもこのシグナル伝達解析システムを用いて検討する。A細胞には増殖を誘導する、あるいは細胞死を誘導するようにし、B細胞にはアポトーシスや細胞死を誘導するERストレス関連マーカー、細胞増殖マーカーの発現をレポーター遺伝子で確認できるように導入する。それらの擬膵島を作製して細胞死や増殖因子で刺激することにより、細胞間シグナル伝達が形態学的に関与しているか検討する。また、これらの検討により明らかにされたギャップ結合関連分子の遺伝子改変動物を作製し、さらにはコネキシン36遺伝子改変動物と掛け合わせた動物を解析することにより、生体におけるギャップ結合の形態学的ならびに機能学的役割を生理的に明らかにする。
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Journal of Diabetes Investigation
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Diabetes
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