研究課題/領域番号 |
25461331
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
黒田 正幸 千葉大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (00253005)
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研究分担者 |
窪田 吉孝 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (10375735)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アルツハイマー / 脂肪細胞 / 脂肪幹細胞 / ネプリライシン / アミロイドβ |
研究実績の概要 |
本研究では最初の目的としてアルツハイマーの病態において血清中に濃度変化が知られているBDNFとAβの脂肪組織における感知機構をASCとccdPAを用いて解明することを目的として検討を進めてきた。 H26年度は、H25年度の成果を基に、ASCとccdPAにおける2種類のBDNF受容体(TrkBとp75NTR)について遺伝子発現を検討したが、少なくとも検討した培養条件においてはBDNF受容体を介したシグナルによる遺伝子発現変化は起きていないものと考えられた。 一方、ASC、ccdPAに強い細胞障害性を示すことが確認されたAβ1-42について、ASCに比較的低濃度の暴露を行い、アルツハイマー病態に関連する遺伝子の発現変化を検討した。幹細胞の走化性を亢進させると報告されている遺伝子の発現上昇が認められ、このシグナルが幹細胞活性化に関与する可能性が示唆された。また、ASCは既報から神経細胞への分化誘導が可能であるとされているが、各種神経伝達物質の受容体遺伝子の発現上昇が観察された。 並行してネプリライシンのノックダウン系による機能解析を進めた。ノックダウンした細胞において、細胞増殖には有意な影響は認められなかった。Aβ1-42による増殖抑制はノックダウン細胞、コントロール細胞共に認められたが、ある一定のAβ1-42濃度において、ネプリライシンのノックダウンが関与すると考えられる相違がASCとccdPAの間で示唆された。さらに、ノックダウンにより、細胞骨格系のタンパク質の発現抑制が確認された。これらの成績はネプリライシンの発現量と細胞骨格系のタンパク質の発現変化が連動することを示しており、ネプリライシンによる細胞外Aβ1-42濃度の感知機構が外的刺激となって、細胞骨格系を介した幹細胞の活性化機構の発現に関与している可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、BDNF濃度を感知する機構がASCまたはccdPAに存在していると考えていたが、これまでの解析から否定的であった。それを踏まえ、H26年度は、研究期間の途中から、ASCに対する低濃度Aβの暴露による影響を検討する方針とした。その結果、ASCにおいて走化性を亢進させることが報告されている遺伝子の発現上昇が認められた。同時並行で進めていたネプリライシンのノックダウン実験からネプリライシンの機能が細胞骨格の機能タンパクと連動する可能性が示唆された。これらの成績から低濃度のAβの暴露によりネプリライシンを介したシグナルが細胞骨格に伝えられ、ASCの活性化(走化性の亢進)につながる一連の仮説を立てられるに至った。当初予想していたものとはやや異なることから、細胞骨格関連の因子によるシグナル伝達機構に関する解析が追加で必要となると考えられるが、複数の仮説経路の予備的な解析から、標的となり得る経路が絞れた段階であり、今後はそれに注力できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を総合的に判断し、Aβ1-42の暴露によるシグナルに関連した検討を中心として今後は進めていく予定である。このシグナルはまだ候補分子の同定段階であるが、走化性に関与している可能性が示唆されるため、当初から検討を予定していた血液脳関門の通過にも寄与する可能性があり、今後も検討を進めたい。 現状、予定していた、ネプリライシンのノックアウトマウスは導入できていない。本研究ではヒトの脂肪組織検体を扱っていること、現状のネプリライシンノックダウンヒト細胞で解析が十分可能であると考えられることから、できる限りヒト細胞の評価系で検討することが理想的であると考えるに至った。特に最近はiPS細胞由来のin vitro評価系も使用でき、CRISPR/Cas9等のノックアウト実験も比較的低予算で可能であることから、費用面も考慮して、よりヒトの病態を反映したヒト細胞評価系で検討を行うことを考えている。 また、分泌型ネプリライシンはBDNFによる神経細胞保護作用と並び、アルツハイマー病態を対象とした治療用分子としての展開も期待できるため、目的を遂行する試験デザインの範囲内で、治療分子としての基礎的なDATAを得られるような研究を推進する。
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