研究開始当初は、BDNF、Aβの感知機構を解明することを目的としていたが、ASC、ccdPAいずれもBDNFに対する応答性をほとんど示さなかったことから、Aβの感知機構を明らかにすることを中心とした研究を行った。Aβ1-42の低濃度暴露により、ASCでは細胞増殖が惹起され、ccdPAではその効果は認められなかった。高濃度Aβ(5μM以上)ではいずれの細胞も細胞傷害性が認められた。ネプリライシン(NEP)の基質として知られているANP、またNEP阻害剤の存在下でAβ1-42の細胞増殖に対する影響を検討したところ、ANPの有無による影響は認めず、一方NEP阻害剤の存在下で、低濃度Aβ1-42による細胞傷害性に変化が認められ、ASCの方がNEP阻害剤の存在下でもAβ1-42による細胞傷害性が低い傾向にあった。この成績は、NEPによる基質の分解活性が、ASCの機能発現に重要であることを示唆する。また低濃度Aβ1-42による細胞増殖の亢進と並行して、同定していた幹細胞走化性関連遺伝子の発現が上昇した。 ASCにおけるNEPによるシグナル伝達機構をさらに検討するため、H26年度に検討したNEPのノックダウンコンストラクトと過剰発現コンストラクトを用いて評価を行った。ASCにおいて、NEPのノックダウンにより同定した走化性関連遺伝子の発現が上昇し、過剰発現により発現が低下した。ccdPAではノックダウンによる変化は認められなかった。また、NEPのノックダウンにより、ASC、ccdPAともに脂肪分化能が抑制された。 以上の成績からASCは、ccdPAに比べ、NEPの発現変化に対してより鋭敏に応答する遺伝子制御機構を有していることが明らかとなり、脂肪組織内にAβに対する応答性の異なる前駆脂肪細胞が存在することにより脂肪組織のAβ濃度に対する応答能を修飾することが考えられる。
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