研究課題
申請者はこれまでに、肝由来分泌タンパクであるセレノプロテインP(SeP)の産生が2型糖尿病で亢進すること、SePがインスリン抵抗性を誘導して高血糖を発症させる”ヘパトカイン”であることを報告した (Misu et al. Cell Metabolism 2010)。しかしながら、従来抗酸化能を有することが知られているSePがインスリン抵抗性を惹起する分子機序はこれまでに完全には解明されていなかった。本研究は、SePによる運動療法抵抗性の発症という新たな病態概念を提唱し、運動感受性増強薬を開発するための研究基盤を確立することを目的とした。培養C2C12筋管細胞において、精製SePタンパク処置が活性酸素 (ROS)依存性のAMPKリン酸化を減弱することを見出した。このとき、SeP処置はミトコンドリア合成のマスターレギュレーターであるPGC1aの遺伝子発現も抑制した。一方、SeP欠損マウスに1か月の有酸素走行トレーニングを負荷した結果、この欠損マウスでは運動耐容能ならびにインスリン感受性が増強しており運動感受性が亢進していることを見出した。また、siRNAをもちいたスクリーニングによって、SePの骨格筋細胞における受容体がLRP1であることが示された。筋特異的LRP1欠損マウスでは、精製SePタンパクの筋取り込みが低下し、SePによるAMPKリン酸化抑制作用がキャンセルされた。さらに、筋LRP1欠損マウスにおいても、慢性トレーニング時の運動療法感受性は亢進していた。これらの実験結果は、ヘパトカインであるSePの過剰が受容体LRP1を介して筋でROS/AMPK経路を抑制することで“運動抵抗性”を惹起することを示す (論文投稿中)。SeP/LRP1 axisの阻害薬は運動療法の感受性を増強させる新たな2型糖尿病治療薬となる可能性がある。
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J Clin Lab Anal
巻: 30 ページ: 114-122
10.1002/jcla.21824.