研究実績の概要 |
血糖コントロール状態が悪い2型糖尿病においては、膵ランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌が徐々に低下し、β細胞の量自体も低下することが知られている。本研究は、このような膵β細胞疲弊とも呼ばれるβ細胞障害のメカニズムの解明を目的とする。本研究者らは、これまでに糖化タンパク(advanced glycation end-products, AGE)とその受容体(receptor for AGE, RAGE)の相互作用が糖尿病血管合併症の発症進展に関わることを提唱してきた。昨年度までの研究によって、RAGEノックアウトマウスと肥満糖尿病モデルマウス(ob/ob, db/db, 高脂肪食負荷)を使用した検討、さらにマウス掛け合わせ実験の結果から、膵β細胞におけるRAGE発現はレプチンシグナル不全に依存すること、RAGE発現を無くすることでβ細胞障害が防止できることを明らかにしてきた。本年度においては、さらにフローサイトメトリーを用いてtoll-like receptor (TLR)2, 4の発現を調べたが、膵β細胞疲弊に陥ったβ細胞においても発現はみられず、TLR2, 4の関与は大きくないものと予想した。マウス膵β細胞由来MIN-6細胞を用いた検討すでは、0.2 mMパルミチン酸あるいは0.2 mMオレイン酸の24時間暴露に加えてレプチン受容体阻害薬の処理によりさらにMIN-6細胞表面のRAGE発現が増えた。このような状態で培養培地中に50 μg/ml AGEを添加すると、MIN-6細胞のインスリン分泌能は低下しアポトーシス細胞数が急激に増加することが分かった。対照の50 μg/ml BSAコントロールではインスリン分泌障害やアポトーシスは生じなかった。以上、膵β細胞における脂肪毒性、糖毒性とRAGE、さらにそこにレプチンシグナルが関わることが明らかとなった。
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