研究実績の概要 |
平成27年度はS100Bホモノックアウトマウス(S100BKO)・野生型C57B6Jマウスを高脂肪食群および通常食群に分け、マウス数を増やして5~12週間飼育した。飼育6週あるいは12週目に空腹血糖値、経口ブドウ糖負荷試験、さらにインスリン負荷試験の評価を行った。また12週終了後に深麻酔科で静脈血、副睾丸周囲脂肪組織、肝臓、膵臓、下腿筋を採取し、遺伝子解析、サイトカイン測定、脂質測定、組織学的評価に供した。 得られた結果として、高脂肪食負荷時に、S100BKO群は野生群に比べ、1)体重は有意差を認めなかった、2)ブドウ糖負荷試験では耐糖能の改善傾向が見られた、3)ブドウ糖負荷時のインスリン分泌は、高脂肪食負荷5週目ではKO群で有意に高値であった、4)インスリン感受性の改善傾向が見られた、5)血清中性脂肪が有意に高値であった、6)高脂肪食負荷5週目でレプチンが高値、7)肝臓の遺伝子発現ではELOVL7,3, FAS, Slco1a1, Cyp7b1, Ces1Gなど脂質・胆汁酸代謝に関連する分子の変動が見られた、8)各臓器の組織学的の検討では明らかな差を認めなかった。 以上の結果は、S100B蛋白が糖・脂質代謝に一定の役割を担っていることを示唆している。S100Bは主に神経系で炎症に関与することが知られているが、糖・脂質代謝への関与は新しい知見であり、今後S100Bを糖尿病・高脂血症の新たな治療目標分子として展開できる可能性がある。 二つ目の課題である糖尿病細小血管障害に対する検討については、S100BKOマウスを肥満・糖脂質代謝の実験に集中したため、予備実験に着手した段階である。STZ投与による糖尿病モデルを作成して飼育中であり、今後、神経機能評価および末梢神経組織の生化学的・組織学的評価を行う必要があると考えられる。
|