研究課題/領域番号 |
25461341
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
一色 啓二 滋賀医科大学, 医学部, 非常勤講師 (60378487)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腎臓病学 / 糖尿病性腎症 / 脂肪毒性 |
研究実績の概要 |
ヒト2型糖尿病性腎症における疾患感受性遺伝子である脂肪酸合成酵素Acetyl-CoA carboxylase β(ACCβ)の腎症発症進展における役割を検討するため、糸球体上皮細胞特異的ACCβ過剰発現マウスを作製し糖尿病モデルにおける検討を行った。その結果、糖尿病状態においてACCβの過剰発現は尿中アルブミン排泄量の増加、糸球体上皮細胞障害をもたらすことを確認した。また、培養糸球体上皮細胞においてもACCβ過剰発現は高糖濃度条件下で糸球体上皮細胞障害をもたらすことを確認した。次に培養近位尿細管細胞を用いてACCβを過剰発現させたところ、高糖濃度条件下で、ACCβ過剰発現は近位尿細管細胞障害を誘導した。さらに、近位尿細管細胞特異的ACCβ過剰発現マウスを作製し、糖尿病モデルにおける検討を行ったところ、糖尿病状態においてACCβ過剰発現はMCP-1の発現増加、マクロファージ浸潤、細胞内酸化ストレスの増加、アポトーシスの誘導など近位尿細管障害をもたらすことを確認してきた。 次に、ACCβの発現抑制が糖尿病状態における糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管細胞に及ぼす影響を、AMPK活性化剤であるAICARの投与ならびに、遺伝子改変システムにより検討を行った。培養糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管細胞において、AICARは高糖濃度条件下でACCβ過剰発現による各々糸球体上皮障害、近位尿細管細胞障害を抑制した。 Cre-loxPシステムを用いて糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管細胞特異的ACCβ-KOマウスを作製し検討を行ったところ、通常飼育群および糖尿病モデル(高脂肪食誘発糖尿病モデルならびにSTZ誘発糖尿病モデル)いずれにおいても、ACCβ発現抑制による有意な差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管細胞特異的ACCβ-KOマウスの表現型解析は、通常飼育群および高脂肪誘発糖尿病モデル、STZ誘発糖尿病モデルのいずれにおいても、ACCβの発現抑制による糸球体上皮細胞障害、近位尿細管細胞障害に明らかな差を認めなかった。 糸球体の上皮細胞数、nephrinやsynaptopodinといった上皮細胞特異蛋白の発現量や糸球体の線維化、アポトーシス、尿細管間質の炎症、線維化、アポトーシス、脂肪蓄積などを腎組織学的評価において有意差を認めなかったため、その後予定していたマグネットビーズ法による単離糸球体、Laser capture microdissection法による単離近位尿細管から抽出した蛋白やmRNAを用いての腎局所の脂肪蓄積、脂質代謝関連酵素の発現量や活性の検討は施行しないこととなったた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に施行した研究の結果、培養糸球体上皮細胞ならびに培養近位尿細管細胞においてACCβの過剰発現によりもたらされる糸球体上皮細胞の形態学的異常やアポトーシスの誘導、近位尿細管上皮細胞における炎症、酸化ストレスの増加、アポトーシスの誘導がAMPK活性化剤であるAICARにより改善しうることが確認された。そこで、次に糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管特異的ACCβ過剰発現マウスに対してAMPK活性化剤の投与がACCβの活性抑制を介し、ACCβ過剰発現で観察された糸球体・尿細管障害を改善しうるかを検討する。 さらに、糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管特異的ACCβ過剰発現マウスにSTZ誘発糖尿病モデルを惹起した後、Adiponectin あるいはAICARといったAMPK活性化剤の全身投与を行い、ACCβ過剰発現によりもたらされる腎症病変の悪化が改善されうるかを検討する。 この検討により、AMPK活性化がACCβ過剰発現状態でも腎症の発症進展を抑制しうることが示されれば、糖尿病状態や遺伝的背景によりACCβの発現が増強した状態で生じる腎脂肪毒性やその後の腎症の増悪を抑制しうる新規治療法としてのAMPK活性化剤の可能性を示すことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に購入予定であった試薬の発注が間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
現在研究を継続中であり、平成27年度に試薬を購入の上使用予定である。
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