我々はこれまでに脂肪酸合成酵素Acetyl-CoA carboxylase β(ACCβ)がヒト2型糖尿病性腎症における疾患感受性遺伝子である可能性を報告してきた。そこでACCβの糖尿病性腎症発症進展における役割を検討するため、糸球体上皮細胞特異的ACCβ過剰発現マウスを作成し糖尿病モデルにおける検討を行った。その結果、ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルにおけるACCβの過剰発現は尿中アルブミン排泄量の増加、糸球体上皮細胞障害をもたらすことを確認した。また、培養糸球体上皮細胞においてもACCβを過剰発現させたところ、高糖濃度条件下で糸球体上皮細胞障害をもたらすことを確認した。 次に培養近位尿細管細胞を用いてACCβを過剰発現させたところ、高糖濃度条件下でACCβ過剰発現は近位尿細管細胞障害を誘導した、さらに、近位尿細管細胞特異的ACCβ過剰発現マウスを作成し、糖尿病モデルにおける検討を行ったところ、糖尿病状態においてACCβ過剰発現はMCP-1の発現増加、マクロファージ浸潤、細胞内酸化ストレスの増加、アポトーシスの誘導など近位尿細管障害をもたらすことを確認してきた。 次にACCβの発現抑制が糖尿病状態における糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管細胞に及ぼす影響を、AMPK活性化抑制剤であるAICARの投与により検討を行った。培養糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管細胞において、AICARは高糖濃度条件下でACCβ過剰発現による各々糸球体上皮細胞障害、近位尿細管細胞障害を抑制した。 以上の結果より、脂肪酸合成酵素ACCβの発現過剰は糖尿病状態において糸球体上皮細胞ならびに近位尿細管細胞障害をもたらすことにより糖尿病性腎症の発症進展に関与し、またACCβの発現抑制は糖尿病性腎症の新たな治療戦略となりうる。
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