研究課題
前年度に引き続き、膵β細胞の細胞質におけるグルタミン酸の産生およびインスリン顆粒への取り込みについてさらに詳細に検討した。13C標識グルコースで細胞を刺激した後、細胞を分画して質量分析計によりグルタミン酸の量を測定すると、細胞質では標識グルコース由来のグルタミン酸が増加していた。また、GLP-1刺激によりインスリン顆粒内で標識グルコース由来のグルタミン酸がGLP-1濃度依存的に増加した。この結果からグルコース代謝由来のグルタミン酸が細胞質で増加し、cAMPシグナルによってインスリン顆粒に取り込まれることが示された。マウス初代培養膵β細胞に蛍光標識したインスリンを発現させ、ジメチルグルタミン酸で刺激して全反射型蛍光顕微鏡で観察することによりインスリン顆粒の開口分泌動態に対する効果を検討した。ジメチルグルタミン酸の前処置により、グルコース依存性の開口分泌は第1相、第2相ともに開口分泌が増加した。また、その開口分泌の様式はcAMP刺激時の様式と類似していた。これらのことから、インスリン顆粒内のグルタミン酸が開口分泌増強のシグナルとなっていることが示唆された。前年度に、正常ラットおよび糖尿病モデルであるGoto-Kakizaki(GK)ラット由来の膵島ではインクレチン応答性が認められるのに対し、肥満モデルであるZucker-Fatty(ZF)ラット由来の膵島では認められないことが明らかになった。そこで、本年度は膵島内のグルタミン酸含量を測定し、インクレチン応答性との関連性を検討した。正常ラットおよびGKラット膵島では高濃度グルコース刺激により膵島内のグルタミン酸含量が増加した。一方、ZFラットの膵島では、グルコース刺激でグルタミン酸含量の増加が認められなかった。このことから、グルコースによるグルタミン酸産生とインクレチンによるインスリン分泌増強が相関することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画のうち、糖尿病状態の膵β細胞におけるグルタミン酸シグナルの役割の解明については、糖尿病モデルラットおよび肥満モデルラットの膵島の解析によりほぼ達成できたと考えられる。また、インスリン顆粒へのグルタミン酸の取り込み制御およびグルタミン酸によるインスリン開口分泌制御については、質量分析計を用いたインスリン顆粒内のグルタミン酸含量の測定や全反射型蛍光顕微鏡によるインスリン顆粒動態の解析などにより明らかになっており、大部分が達成できている。以上のことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
当初の研究計画のうち、cAMPシグナルによるインスリン顆粒へのグルタミン酸取り込みの制御機構およびグルタミン酸による開口分泌機構について、質量分析計を用いた解析により関与する分子を同定する。これらの研究に必要な設備や材料は備えており、研究の遂行に問題はないと考えられる。
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