研究課題/領域番号 |
25461353
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
片岡 浩介 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 准教授 (20262074)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 遺伝子発現 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
2型糖尿病の発症・進行の過程で、高血糖状態が持続することなどのストレスによって膵β細胞が疲弊し、機能不全に陥ることが知られているが、その分子機構は明らかになっておらず、治療・予防の上での障壁となっている。本研究では、β細胞の機能維持に必須な転写制御因子MafAのリン酸化に注目し、特にMafAの機能発揮に必須なリン酸化を担うキナーゼ(MafAキナーゼ)とβ細胞の機能不全との関連性を調べる。 昨年度までに、40種類を超えるキナーゼを対象としたさまざまな阻害剤と、9種類のキナーゼのsiRNAを用いた検討から、β細胞内では複数のキナーゼ(ファミリー)がMafAキナーゼとしてredundantに機能していることが推測された。本年度は、このキナーゼ・ファミリーについて、2型糖尿病のモデルマウスであるdb/dbマウスの糖尿病進行に伴う膵島β細胞における発現・局在の変化を調べた。そのうちのひとつのキナーゼは、野生型マウスと比べて、糖尿病の発症のごく初期(5-6週零)にゴルジ体に限局し、その後消失することがわかった。また、別のひとつのキナーゼは、やはり6週零頃には発現が消失してしまうことが判明した。MafAは6週齢前後で核内からゴルジ体へ一部移行したのち、消失してゆくこともわかった。これらの因子群の挙動は、糖尿病発症の過程でもっとも早い時期に起きる変化であり、機能不全との関連性が強く疑われる。β細胞機能不全と、過剰なインスリン分泌に伴う小胞体-ゴルジ体-分泌系へのストレスとの関連性も垣間見えてきた。 一方、β細胞株MIN6にsiRNAを導入することによって、キナーゼの機能阻害実験を試みたが、transfection効率が低いためにノックダウン効率が悪く、明確な結果を得ることができなかった。そこでCrisper-Cas9システムを導入し、ゲノム編集によってキナーゼの発現阻害を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、転写因子MafAをリン酸化するキナーゼが、β細胞中では1種類ではなく、おそらくファミリーを形成してredundantに機能していることが判明したため、どのキナーゼが重要な役割を果たすのかを絞り込むのに時間がかかってしまった。今年度は、貢献度の高そうなメンバーについて解析を進めることによって、足踏み状態を回避し、ゴルジ体との関連などの興味深い結果を得ているものの、siRNAを用いた完全特定には至っていないのが現状である。技術的には、培養β細胞株MIN6へのsiRNAのtransfeection効率がよくないことが主たる障壁であるので、Crisper-Cas9システムを導入し、ゲノム編集による遺伝子破壊を試みているが、MIN6は増殖が極端に遅い培養細胞であるために遺伝子破壊クローンを選抜する過程が困難であることが、別の障壁となって時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
β細胞機能不全のごく初期の変化として、ゴルジ体へのストレスとの関連性が示唆される結果を得たので、MafAキナーゼの局在や安定性とストレスとの関連をより明らかにすべく、培養系を用いた解析を進めることによって、因果関係や分子機構の解明を目指す。 当初予定していたマウス個体を利用した実験のうち、MafAをリン酸化するキナーゼが、β細胞中では1種類ではなくredundantであることから、ノックアウト・マウス作製については速やかな実施が困難かもしれない。一方、過剰発現(トランスジェニック・マウス)による糖尿病の回避については実施できる可能性があるので、以下の進捗状況を見ながら検討する。 MafAキナーゼの機能解析には、培養β細胞系でキナーゼの発現阻害をすることが必須条件であるので、Crisper-Cas9システムを利用して解析に供すべく、時間をかけてでも複数のキナーゼを破壊した株を取得する必要がある。この遂行のために、両アレルを効率よく編集できる系(mutagenic chain reaction)などの工夫をさらに導入して解決を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
H25年度に計画していた、MafAキナーゼについてのsiRNA導入による完全同定が困難であったために行えず、計画に遅れを生じたため、その目的で使用予定だった試薬類の購入がH25年度には必要でなくなった。H26年度は、この遅れを部分的には取り戻すことができ、MafAキナーゼのマウス個体レベルでの発現解析などのための試薬類(特異抗体など)の購入に充てたが、依然として培養細胞系での遺伝子ノックダウンの技術的問題点を解決できなかったため、MafAキナーゼの性状解析を行うための試薬類が、年度内には必要がなく、次年度以降に使用する予定となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
培養細胞系での遺伝子ノックダウンの問題点を、Crisper-Cas9システムの利用によって克服できる見込みがあるので、H27年度にはMafAキナーゼの培養細胞レベルでの性状解析を行う予定である。この目的のため、主に遺伝子組換え実験に用いる分子生物学キット類や生化学試薬類、細胞培養用の培地・血清・培養皿などの消耗品が前年度以上に必要になるので、それらの購入に充てる。
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