研究課題
本研究課題では、2型糖尿病病態形成におけるGSK-3の役割についての解明を目的とする。eIF2αのリン酸化を介する全般的翻訳抑制とそれに続く転写因子ATF4の活性化は、integrated stress response (ISR)と呼ばれ、様々なストレスに共通の応答経路である。セリン・スレオニンキナーゼglycogen synthase kinase-3 (GSK-3)はインスリンシグナルの下流でAkt/PKBによるリン酸化により制御される。本研究課題において、小胞体ストレス下の膵β細胞において、インスリンシグナル減弱により活性化したGSK-3がATF4蛋白分解を促進することを見出した。さらに、マウス膵β細胞において、GSK-3活性抑制がATF4依存的に小胞体ストレス誘導性アポトーシスを減弱することを突き止めた。このとき、GSK-3活性抑制がATF4依存的にeIF2αの脱リン酸化を促進するとともに翻訳制御因子4E-BP1の発現を増強した。eIF2αリン酸化-ATF4誘導の経路は比較的短時間の応答であるが、4E-BP1の活性は蛋白それ自体の安定性によりストレス暴露後持続的である。GSK-3によるISR制御と細胞機能との関連について、mRNA翻訳の解析を行った。GSK-3抑制がATF4依存的に小胞体ストレス暴露後急性期における全般的翻訳抑制をより早期に解除し、一方、慢性期においては、ATF4依存的にmRNA翻訳を抑制した。これらの結果から、GSK-3を介したインスリンシグナルとISRのクロストークがmRNA翻訳制御を介してβ細胞生存に重要な役割を担うことが示唆された。一方、エネルギー代謝の観点からGSK-3の役割について解析を行い、PPARγがGSK-3のリン酸化基質であることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
細胞モデルやマウスモデルの解析を踏まえて、分子機構の解明を進めている。探索的研究から具体的なシグナル経路の解析を行い、それを介する細胞機能への影響について解析を行っており、作業仮説に矛盾しない結果を得つつある。解析に必要なcDNAやウィルスベクターはすでに準備しており、必要な実験機器も完備している。
小胞体ストレス病態モデルにおけるGSK-3-ATF4経路の役割について検討を行う。ここでは、既にマウスモデルおよびそれより樹立した膵β細胞株を得ており、これらを用いて解析を行う。一方、GSK-3によるリン酸化を介したPPARγの転写機能制御について解析を行う。ここでは、PPARγ転写活性およびcofactorとの結合などについて解析を行う。さらに、チアゾリジン系薬剤の効果に対するGSK-3活性の影響を解析する。
本年度の実験計画に変更は特にないが、動物実験および生化学的実験が比較的順調に進んだことや実験試薬・消耗品の変更などに伴い、次年度使用額が生じた。
次年度使用額については、平成27年度の生化学実験に用いる実験試薬、消耗品の購入に合わせて使用する予定である。特に、抗体購入、網羅的遺伝子発現解析の費用に充てたい。この他、動物飼育費用も計上する。成果発表のため米国糖尿病学会への出張旅費(4泊6日、ボストン)や論文投稿費用も計上する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Nihon Rinsho
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日本体質医学会雑誌
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PLOS ONE
巻: 9 ページ: e106906
doi: 10.1371/journal.pone.0106906.