本課題では、2型糖尿病の病態形成におけるGSK-3の役割について、1)GSK-3を介した膵β細胞アポトーシス誘導機構の解明、2)GSK-3を介したエネルギー代謝調節機構の解明を目的とした。 GSK-3活性抑制により小胞体ストレス誘導性膵β細胞アポトーシスが減弱した。このとき、小胞体ストレス急性期応答である全般的タンパク翻訳抑制が早期に回復し、慢性期においては、タンパク翻訳は抑制的に制御された。これらのGSK-3抑制の効果はATF4依存的であり、その分子機構としてGSK-3がATF4 S214のリン酸化を介してATF4蛋白分解を促進することを解明した。一方、ATF4の転写標的である翻訳抑制因子4E-BP1を欠損した膵島では、GSK-3抑制の効果が顕著に減弱した。すなわち、GSK-3によるATF4-4E-BP1経路を介した翻訳制御障害が小胞体ストレスによる膵β細胞アポトーシス誘導機構の少なくとも一部であることが示唆された。 マウス脂肪組織において高脂肪食負荷によりGSK-3βが活性化しており、肥満・インスリン抵抗性病態形成との関わりが示唆された。一方、PPARγのThr269がGSK-3のリン酸化基質であることを見出した。さらに、GSK-3によるThr269のリン酸化にはSer273のリン酸化が必須であった。PPARγの転写機能はSer273のリン酸化を介して抑制的に制御され、チアゾリジン誘導体の作用点がSer273のリン酸化阻害であることが明らかにされている。これらの知見より、GSK-3がPPARγの機能調節を介してエネルギー代謝調節に重要な役割を担う可能性が示唆された。以上の研究成果を通じて、GSK-3がインスリン作用障害の重要なメディエーターとして2型糖尿病の病態形成に深くかかわっており、有望な治療標的となり得る可能性が示唆された。
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