研究課題
【目的】動脈硬化病変や脂肪組織における組織浸潤マクロファージの増殖が、動脈硬化および耐糖能異常の発症・進展に及ぼす生理学的意義を、マクロファージ特異的増殖抑制マウスを用いて検討した。【方法】スカベンジャー受容体遺伝子プロモーター制御下にサイクリン依存性キナーゼ阻害因子 p27kipを発現するマクロファージ特異的増殖抑制マウス(mac-p27Tg)を作成した。①mac-p27Tgへの高脂肪食負荷群、mac-p27Tgとob/obマウスとの交配群(ob/ob×mac-p27Tg)において、耐糖能に対するマクロファージ増殖の影響を検討した。ipGTT、ipITTを行い耐糖能を評価した。精巣上体周囲脂肪組織の組織学的変化、炎症性サイトカインの発現を検討した。②ApoE-/-×mac-p27Tgにおいて、動脈硬化病変の発症・進展に対するマクロファージ増殖の影響を検討した。大動脈弁輪部切片のプラーク面積を計測した。レーザーマイクロダイセクションで回収した動脈硬化病変組織におけるmRNA発現を検討した。【結果】①ipGTTにおいて、マクロファージ増殖抑制による血糖上昇の抑制を認めた。ipITTでは、HFD mac-p27Tg群、ob/ob×mac-p27Tg群共に有意なインスリン抵抗性の改善を認めた。脂肪組織では、HFD mac-p27Tgの浸潤マクロファージ及びCrown-like structure形成の減少、TNF-α、IL-6 mRNA発現の減少を認めた。②ApoE-/-×mac-p27Tgにおける大動脈弁輪部切片のプラーク面積は有意に減少していた。プラークにおけるIba-1、Ki67陽性の増殖マクロファージはApoE-/-×mac-p27Tg群で減少し、動脈硬化病変部におけるCD68、IL-6、MCP-1、IL-1βmRNA発現は減少を認めた。【結論】マクロファージ特異的増殖抑制マウスにて、①インスリン抵抗性の改善、②動脈硬化病変部の炎症性サイトカイン抑制、プラーク形成の抑制を認めた。
2: おおむね順調に進展している
マクロファージ特異的human p27kipトランスジェニックマウス(mac-p27Tg)を作成した。本マウスは、マクロファージ特異的にp27kipを発現することで分化を遂げたマクロファージの増殖を特異的に抑制する。動脈硬化病変形成に対するマクロファージ増殖の意義の検討を行うために、動脈硬化モデルマウスであるApoE欠損マウスとの交配を行い、得られたマウスにおける動脈硬化病変の発症、進展を検討した。また、マクロファージ増殖の耐糖能への影響を①mac-p27Tgに高脂肪食負荷を行う系、②mac-p27Tgと肥満糖尿病モデルマウスであるob/obマウスとの交配を行う系において検討した。これらの動物実験は軌道に乗り、科学的解析を行うに十分な個体数を得られており、動脈硬化病変や脂肪組織における遺伝子発現の検討に至っている。また、糖代謝への影響の検討においては、脂肪組織のみならず、肝臓、膵島へのマクロファージ浸潤と増殖の意義についての検討を開始した。個体としての表現型の差異は確認できたものの、特にin vitroの実験系での細胞および分子レベルにおける、動脈硬化、耐糖能異常の発症・進展におけるマクロファージ増殖の意義、またマクロファージ増殖に関与する分子の同定とその生理的意義の解明に至るには十分な検討を行えていないことから「やや遅れている」と判断する。
In vivoの解析では、これまでマクロファージ特異的p27発現マウスを用いた検討であったが、現在さらにマクロファージ特異的Tet-onシステムを用いた系を構築しており、p27発現の時間的・空間的制御によりマクロファージ増殖の調節を行うことで、マクロファージ増殖の病態への関与をさらに詳細に検討することができると考える。本システムにより、これまで当教室が提唱してきた、スタチンやその他の薬剤によるマクロファージ増殖抑制を介した抗動脈硬化作用を明らかにし得ると考える。糖代謝に対する組織マクロファージ増殖の関与については、おもに脂肪組織、肝臓の組織マクロファージにおいてFlow cytometoryを用いた解析を行い、増殖とマクロファージ極性(M1/M2)の関与、浸潤マクロファージと常在マクロファージの増殖能とそれらの病態への関与を明らかにすることができると考えている。さらに、In vitroの実験系では引き続き動脈硬化、耐糖能異常の発症・進展におけるマクロファージ増殖の意義の解明をめざし、マクロファージ増殖に関与する分子の同定とその作用機序の検討を行っていきたい。
当初の研究計画に従いほぼ予定通りに研究を遂行し、次年度使用額3124円を残すのみとなった。
研究消耗品の費用の一部として使用予定。
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