研究課題/領域番号 |
25461366
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
藤本 啓 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (40372974)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Apoptosis / Beta cell death / Pkcdelta / Palmitate |
研究実績の概要 |
近年、高血糖時に遊離脂肪酸(FFA)の増加が加わった糖脂肪毒性により糖尿病の膵β細胞死が惹起されることが想定されている。膵β細胞に取り込まれたFFAとブドウ糖はジアシルグリセロールに合成され、細胞死に関与するキナーゼであるPKCδを活性化させて膵β細胞死に関わると考えられるが糖脂肪毒性下におけるPKCδの分子機序は不明である。よって、糖脂肪毒性によるPKCδ依存性膵β細胞死の分子機序の明らかにすることを目的とした。 マウスインスリノーマ(MN6)細胞に遊離脂肪酸の代表であるパルミチン酸を添加すると、MIN6細胞死の増加と膵β細胞の発生・維持に必須である転写因子であるPdx1蛋白の減少が認められた。またパルミチン酸はPKCδのリン酸化と活性断端の発現誘導を惹起し、PKCδと活性断端の核内移行を誘導した。さらにPKCδのノックダウンを行ったところパルミチン酸によるPdx1蛋白発現の減少は有意に抑制され、早期のアポトーシスマーカーであるAnnexinV陽性細胞数が減少した。以上から、パルミチン酸はPKCδを介してPdx1の発現を調節しMIN6細胞死を誘導すると考えられる。さらにPKCδfloxマウスを用いて膵β細胞特異的にPKCδをノックアウトした(βPKCδKO)マウスを樹立した。新生時期にストレプトゾトシン(STZ)を腹腔内投与したマウス(新生児期STZモデルマウス)を作成し、高脂肪餌を8週齢より負荷した。野生型の新生児期STZモデルマウスに高脂肪餌を投与したところ著明な高血糖と膵β細胞容積の低下が認められた。一方で、βPKCδKOマウスではIPGTTにおいて負荷後30分値、60分値の血糖値が有意に改善していた。また、膵β細胞容積の減少はβPKCδの欠失により有意に抑制された。このことから、PKCδの発現調節が糖脂肪毒性による膵β細胞容積低下に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵β細胞特異的ノックアウトマウスを用いた検討によって、膵β細胞のPKCδが糖脂肪毒性による膵β細胞容積低下に関与している可能性が示唆された。in vitroにおいても糖脂肪毒性によって活性化されたPKCδはPdx1の発現調節によりMIN6細胞死を誘導することが示唆された。以上から「糖脂肪毒性によるPKCδ依存性膵β細胞死」の分子機序の解明は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
糖脂肪毒性で活性化されたPKCδがどのようにPdx1に関与するかはまだ不明な点が多い。Recombinant proteinを用いた検討において、PKCδはPdx1の直接リン酸化に関与していなかったため、間接的な経路が存在すると考えられる。Pdx1を介した膵β細胞死については、PI3K-Aktシグナルおよびその下流にFoxo1、Gsk-3β、mTORが存在し、抗アポトーシス効果にはたらくことが明らかになっている。また、PI3Kへはインスリン受容体およびIRSを介してシグナル伝達が行われている。予備実験においてパルミチン酸添加によりMIN6細胞のIRS2の蛋白発現が減少した。さらにPKCδのノックダウンを行ったところIRS2蛋白の減少が改善した。この結果から、PKCδがパルミチン酸によるIRS2の発現調節に関わっている可能性が示唆されるため、以下を検討する。 ①パルミチン酸添加によるIRS2のリン酸化の検討 ②PKCδとIRS2の直接リン酸化の有無の検討 ③ウェスタンブロットを用いてパルミチン酸添加によるPI3K-Aktシグナルの検討 さらに、PKCδのノックダウンを行い、PKCδの発現調節によるIRS2-PI3K-Aktシグナルへの寄与を検討していく。 また、野生型およびβPKCδKOマウスの単離膵島を用い、以下を検討する。 ①パルミチン酸添加による膵β細胞死をAnnexinV染色で検討 ②PKCδの核内移行についてPKCδの免疫染色で検討 これらの検討により「糖脂肪毒性によるPKCδ依存性膵β細胞死」の分子機序の解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末のin vitroの細胞内シグナル検討において、今後更に試薬の購入が必要と考えられる。いずれも高価であり、研究項目を検討した結果、残額を次年度に繰り越してよりよい研究成果につなげたいと考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は、今後の推進方策に従って研究を行う。本年の残額である次年度使用額はin vitroの検討に必要なウェスタンブロットの抗体およびrecombinant proteinの購入の一部として使用することを計画している。
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