2型糖尿病はインスリン抵抗性と相対的なインスリン分泌障害によって生じ、膵β細胞容積の低下は相対的なインスリン分泌障害の原因の1つである。高グルコースに高遊離脂肪酸(FFA)が加わった糖脂肪毒性(glucolipotoxicity)は膵β細胞機能障害および膵β細胞死を誘導する。高グルコースおよびFFAはnovel protein kinase c (PKC)であるPKCδを活性化させる。しかし糖尿病および脂質異常症におけるPKCδの詳細な機能は不明である。 非肥満2型糖尿病に高脂血症が加わったglucolipotoxicityモデルマウスとして、新生児ストレプトゾトシンモデルマウスに高脂肪食を負荷し耐糖能および膵β細胞容積を検討した。Glucolipotoxicityモデルマウスにおいて膵β細胞容積減少に伴い、耐糖能異常を示した。膵β細胞特異的なPKCδ欠失はglucolipotoxicityモデルマウスの膵β細胞死を抑制し、膵β細胞容積減少および耐糖能異常を改善した。 膵β細胞におけるPKCδの機能を検討するため、マウスインスリノーマMIN6細胞を用いて細胞レベルにおけるglucolipotoxicityの検討を行った。高グルコース条件下におけるパルミチン酸添加はMIN6細胞のPKCδを活性化し、MIN6細胞死を増加させた。さらにパルミチン酸は膵β細胞の発生維持に必須である転写因子 pancreatic duodenal homeobox 1(Pdx1) T11リン酸化およびPdx1蛋白発現の減少を誘導した。PKCδノックダウンはPdx1 T11リン酸化およびPdx1蛋白発現減少を抑制し、MIN6細胞死を改善した。 以上よりglucolipotoxicityはPKCδ-Pdx1経路を介して膵β細胞死を誘導する。膵β細胞容積の改善を標的とした糖尿病治療の可能性が示唆された。
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