研究課題
肝臓は糖・脂質代謝において中心的な役割を果たしている臓器の1つであり、インスリンは肝臓において糖新生を抑制し、脂質合成を促進する。ところが、2型糖尿病の肝臓では糖新生抑制に対してはインスリン作用の低下が認められ、脂肪合成に対してはむしろインスリン作用が亢進している病態が認められるが、そのメカニズムは十分に解明されていない。これらを明らかにするために、昨年度までに肝臓特異的インスリン受容体基質-1欠損(LIRS1KO)マウス、肝臓特異的IRS-2欠損(LIRS2KO)マウス、肝臓特異的IRS1/IRS2ダブル欠損マウスを作製し、これらのマウスに高脂肪食負荷を行った。その結果から、肥満・2型糖尿病の肝臓においてIRS-2の発現低下が、肥満・2型糖尿病の選択的インスリン抵抗性の原因の一つとして考えらえた。そこで、IRS-2の発現を肝臓だけで増やすために、アデノウイスルによるIRS-2過剰発現ベクターを構築し、尾静脈から肝臓に投与した。肝臓にアデノウイルスIRS-2過剰発現ベクターを投与した後、高脂肪食を4週間負荷したところ、高脂肪食により低下していたIRS-2の発現は普通食のマウスとほぼ同程度まで回復した。この時グルコース負荷試験を行うと、コントロールのベクターを投与した高脂肪食負荷マウスに比べ、部分的であるが耐糖能が改善した。このことから肥満・2型糖尿病で認められるインスリン抵抗性には、一部肝臓のIRS-2の発現が関与していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は肝臓のIRS-2の役割を明らかにするために、アデノウイルスによるIRS-2過剰発現ベクターを構築し、まずこの発現ベクターが正常に機能するかどうかを確認した後に、マウスに投与した。その結果から少なくとも肥満・2型糖尿病で認められる肝臓の選択的インスリン抵抗性の発症メカニズムの一つに、高脂肪食によるIRS-2の発現低下が原因であることが示唆された。
高脂肪食によるIRS-2の発現低下は、高インスリン血症によるFoxo1を介したものであると考えられているが、必ずしも一致したデータが得られていない。そこでIRS-2の発現がどのようなメカニズムで起こるのかについてin vivoとin vitroの系を用いて検討する。また、アデノウイルスでIRS-2の発現を戻した時に脂肪肝も改善しているのかどうかについても検討していく。
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