研究課題
基盤研究(C)
今年度はこれまでに申請者らが開発したヒトiPS細胞から軟骨細胞への分化誘導法の改良、および軟骨無形成症患者由来iPS細胞から軟骨細胞へのin vitroでの分化能について並行して検討してきた。これまでの我々の誘導法では、未分化iPS細胞から軟骨細胞に誘導させるために、胚葉体(EB)の形成(1st step)、培養皿上に接着したEBからの発芽状細胞増殖(2nd step)、一旦細胞を回収しEBを除いた後の単層培養(3rd step)、ペレットカルチャー(4th step)の4段階を経る(Koyama N, Miura M. et al. Stem Cells Dev. 2012.)。今年度は主に4th stepでの培養条件について検討した。まず、低酸素環境でのペレットカルチャーについて試みた。これまで申請者らは20%の酸素濃度下でペレットカルチャーを行っていたが、関節軟骨は生体内では1-7%の酸素濃度で存在すると言われており、5%の酸素濃度下でペレットカルチャーを行った。しかし、3週間培養後のペレットの組織像は却って組織の壊死が多く認められ、申請者らの培養系において低酸素環境はむしろ細胞へのダメージの方が大きいと考えられた。次に、ペレットカルチャーに用いる培養液に数種類のホルモンや成長因子の添加を行った。このうち、骨形成タンパク質(BMP2)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)はいずれも軟骨分化マーカー(2型コラーゲン、アグリカン)の発現増強やグリコサミノグリカンの産生量増加傾向を示し、分化促進因子と考えられた。樹立した軟骨無形成症患者由来iPS細胞(Ach-iPS細胞)を用いて申請者らの培養方法で軟骨細胞への誘導を行った。ペレットカルチャー後の組織像で検討したところ、Ach-iPS細胞も健常者由来iPS細胞とほぼ同等の分化能を示した。このことより、少なくとも分化の初期から中期段階の軟骨細胞への分化能は軟骨無形成症患者の細胞においても維持されていることが示された。
3: やや遅れている
iPS細胞から軟骨細胞への分化能について、クローン間の差が大きく複数のクローンで確認しなければならないことが理由の1つとして挙げられる。軟骨無形成症患者由来iPS細胞(Ach-iPS細胞)は、エピソーマル・プラスミドを用いて作成しているため、同方法を用いて作成された健常者由来iPS細胞を対象として京都大学iPS細胞研究所より譲り受けた。これまでの軟骨細胞への誘導方法については、ウイルスベクターを用いて作成されたB7クローンを主に用いて検討してきた。しかしエピソーマル・プラスミドを用いて作成された、譲渡を受けたiPS細胞はB7クローンとは軟骨細胞への分化能が異なり、何度も誘導を試みたが、最終的に実験への使用を諦めなければならないクローンも存在した。同一ドナー由来のAch-iPS細胞においてもクローン間の性質の違いを認めている。同一ドナー、同一組織由来で同一遺伝子変異を有していてもエピジェネティックな影響は排除できず、常に複数のクローンを用いて検討しなければならないことが実験を煩雑にする一因となっている。
より成熟した軟骨細胞への分化誘導方法については、これまでの申請者らの検討で最もデータの蓄積しているB7クローンを用いて引き続き行っていく。H26年度はペレットカルチャーの条件だけでなく、間葉系前駆細胞へのより効率的な誘導方法についても検討していく予定である。また、軟骨無形成症患者由来iPS細胞(Ach-iPS細胞)と健常者由来iPS細胞における薬剤の効果を比較するには、今年度の検討により、ペレットカルチャーの段階での添加実験には反映されない可能性が示唆されている。このため、未分化iPS細胞から軟骨細胞への分化過程において軟骨無形成症患者の病態がどのように再現され得るのかを把握し、ペレットカルチャー以前の誘導段階を含め、薬剤の評価を行うのに適切なタイミング、評価方法を探る必要がある。
研究計画がやや遅れたこと、および急遽他の助成金が得られたことにより、本年度の交付金に一部余剰金が生じた。H26年は他からの助成金の受け入れ予定は無く、複数の疾患患者由来iPS細胞、対象としての健常者由来iPS細胞を培養予定であることから、これらの細胞の維持、分化誘導、遺伝子発現評価、組織学的評価、表面マーカー解析などに使用する予定である。
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J Hypertens
巻: 31 ページ: 2010-2017
10.1097/HJH.0b013e3283635789.