研究課題
基盤研究(C)
雄性生体におけるアンドロゲン受容体(AR)作用は、多臓器にわたり重要な役割を果たすことが、知られている。我々はこれまでに雄性AR欠損(KO)マウスを用いて、心血管ストレスに対してARは臓器保護効果を有する事を報告して来た。しかしながら、雌性生体の心血管系組織におけるAR作用の意義については、未だ不明な点が多い。研究方法として、25週齢の雌雄AR野生型(WT)マウスおよび雌雄ARKOマウスを用い、大腿動静脈結紮術施行後の下肢虚血による血管新生モデルを作成し、虚血肢生存率の評価と、レーザー血流計による血流回復解析を行なった。また浸透圧ミニポンプを用いてアンジオテンシンII (Ang II)(2.0mg/kg/day)を2週間持続投与したモデルを作成し、心血管組織の表現型を解析した。その結果、下肢虚血モデルによる下肢生存率は雌雄ともARWTマウスに比してARKOマウスで有意に低下していた。また生存肢の血流回復および血管新生ともに雌雄のARKOマウスでは、雌雄のARWTに比較して有意に低下・障害されていた (Yoshida & Aihara et al. Circulation. 2013;128(1):60-71.)。一方、Ang II負荷モデルにおいて、雄性ARKOマウスは、雄性ARWTマウスに比較して、心筋間質、冠動脈周囲および大動脈周囲の線維化が亢進し、血管中膜の肥厚を認めたが、雌性ARKOマウスでは、雌性ARWTマウスとの間に明らかな心血管系組織表現型の差異を認めなかった。現時点で、雄性生体の心血管系AR作用は、臓器保護的な効果を発揮する一方、雌性生体のAR作用は、心血管ストレスに対する臓器保護効果は限定的であり、性差が存在する事が明らかとなった。
3: やや遅れている
雌のアンドロゲン受容体(AR)ノックアウトマウスの作出に時間を要しており、十分な実験用マウスの確保が出来ていないのが、主因である。また組織特異的なARノックアウトマウスの産出も行う必要があるが、やや停滞しているのが、現状である。実験動物の数の確保をまず優先的に行う必要がある。
(1) 炎症性心血管ストレスに対する雌AR欠損マウスの表現型解析心筋組織、大動脈組織、ビニルカフ傷害大腿動脈組織を採取し、cDNAを作成後に、これまで我々が雄マウスの解析で得られたナトリウム利尿ペプチドファミリー、NADPH oxidase component、炎症性サイトカインやケモカイン(IL-1β, IL-6, MCP-1, TNF-α etc)に加え、TGFβ-Smad pathwayなどのAR関連心血管リモデリング制御因子の発現解析を行なう。更にPCR arrayによる網羅的な心血管組織リモデリング制御因子の発現解析を行なう。またこれら雄AR欠損マウスで我々がこれまでに見いだしている血管組織におけるeNOSやAktのリン酸化異常の有無についてWestern blot解析にて評価を行なう。(2) 雌雄マクロファージ特異的AR欠損粥状動脈硬化モデルマウスの樹立と解析雌雄のマクロファージ特異的AR欠損マウスを増産し、通常食とWestern dietの食事負荷を行なった各群での粥状動脈硬化病変形成過程についてマクロな動脈硬化病変を、マルチスライスCTによるヘリカル撮影及びプロトンMRIにおる形態イメージングに加え、マクロファージを標的とした分子プローブ18F-FDGを用いたPET/CT解析、及びin vivoバイオイメージング装置(IVIS)による粥状プラークの蛍光ライブイメージングを並行して行う。更にこれらの分子イメージング像を3次元統合画像として構築する。
解析用マウスの数が、十分確保出来ていなかったために免疫組織化学検査や、その他の分子生物学的解析(real-time PCRおよびWestern blotなど)での検討が十分行う事が出来なかった。今後は解析対象マウスの増産を行い、予定されていた免疫染色や、分子生物学的解析を精力的に進めて行く予定であり、昨年度および今年度分の研究予算あわせての執行を行う見通しである。
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Journal of Atherosclerosis and Thrombosis
巻: 21 ページ: 486-500
Circulation
巻: 128 ページ: 60-71
10.1161/CIRCULATIONAHA.113.001533.