研究課題
我々はこれまでに、雄性AR欠損(KO)マウスを用いて、心血管ストレスに対して、ARは多様な臓器保護効果を示す事を証明してきた。しかしながら、雌性生体の心血管組織におけるARの病態意義については、未だ不明な状態であったため、我々は雌雄ARKOマウスの後肢虚血モデルを作成し、虚血組織の耐性とその後の血管新生過程の表現型の解析および分子生物学的検討を行った。その結果、ARは性差に関わらず、虚血組織保護と血管新生促進作用において重要な役割を果たすことが明らかになった (Yoshida S & Aihara K et al. Circulation. 2013)。しかしながら、その一方で心血管組織の間質線維化を促進する過剰なアンジオテンシンII (Ang II) 負荷モデルの解析では、雄性ARKOマウスでのこれまでの結果とは異なり、雌性ARKOマウスでは、野生型マウスと比較して、明らかな表現型の差異を認めず、心血管組織における雌性ARの作用は、その臓器ストレスの種類によって、雌雄で異なる機能を発揮することが示唆された。また心血管病の形成においては、マクロファージが大きな役割を果たすことがこれまでの研究で明らかになっているが、我々はマクロファージにもARが存在することを確認の上、マクロファージ特異的なARKOマウス(LysM ARKOマウス)を作成し、粥状動脈硬化症モデルマウスのApoEKOマウスと交配の結果、ApoE-/-LysMAR-/-マウスを作成した。大動脈弁直上部の粥状プラーク面積はApoE-/-マウスに比較して、ApoE-/-LysMAR-/-マウスで増大しており、大動脈サンプルを用いたPCR arrayでは、目立ったマーカー遺伝子の発現プロファイル異常は無かったものの、Western Blot解析では、ApoE-/-LysMAR-/-マウスにおいて、p38やERK1/2のリン酸化が亢進し、AMPKやERK5のリン酸化は低下が見られた。これらの結果は、マクロファージのARは、non genomicな機序で、粥状動脈硬化の進展抑制に作用している事が明らかになった。
3: やや遅れている
マウスの表現型にはややばらつきがあり、統計学的な有意差の確定のため、相当数のサンプル数を必要とすることに加え、実験結果の再現性確認に慎重を期しているため、研究の進捗状況としてはややペースが遅くなっている。
(1) 炎症性血管ストレスに対する雌ARKOマウスの表現型解析心筋組織、大動脈組織、ビニルカフ傷害大腿動脈組織を採取し、cDNAを作成後に、ナトリウム利尿ペプチドファミリー、NADPH oxidase component、炎症性サイトカインやケモカイン(IL1-β, IL6, MCP-1, TNF-α etc)に加え、TGFβ-Smad pathwayなどのAR関連心血管利モデリング解析を行う。(2) 雌雄ApoE-/- マクロファージ特異的AR-/-2重欠損マウスにおける粥状動脈硬化の表現型および分子生物学的解析雄ApoE-/- マクロファージ特異的AR-/-2重欠損マウスにおける血管の表現型の解析を進める他、雌マウスについても、解析を開始する。またex vivo解析として、各群の腹腔内マクロファージを採取し、M1およびM2マーカー遺伝子発現解析によるマクロファージ極性の評価や、マクロファージの機能評価を行う。また引き続き、採取血管サンプルにおける免疫染色やWestern Blot解析を通して、マクロファージAR作用を介する粥状動脈硬化形成連関基盤分子の同定およびその制御機構の解明を図る。
解析に用いるマクロファージ特異的アンドロゲン受容体欠損マウスの数が十分量揃っていなかったため、解析量が十分消費できていなかった。そのため、消耗品等の拠出があまり進んでいなかった。
今後は、PCR arrayやWestern Blot解析の件数を増やすことや、解析用に増加するマウスの飼育費用に使用する予定である。
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