研究課題
下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)は多様な生理活性を示す神経ペプチドであり、代謝系のエネルギーバランスの維持においても生理的意義を持つと考えられている。そこで、PACAPの代謝調節機能としてマウス培養アストロサイトにおけるグリコーゲン代謝に及ぼす効果について検討したところ、PACAPは、濃度依存的に、1時間後のグリコーゲン分解を促進し、そのEC50は8.2pMと、ノルアドレナリンに比べ顕著に高かった。また9時間後のグリコーゲン合成も活性化された。グリコーゲン代謝関連遺伝子の発現を検討したところ、グリコーゲン合成に重要とされる足場蛋白PTGの発現が有意に増加した。以上よりPACAPはアストロサイトのグリコーゲン代謝を活性化することが示唆された。一方PACAPの摂食調節における作用としては、従来摂食抑制作用を示すとされている。しかしながらPACAPノックアウトマウスを用いた我々の検討では、むしろ逆の摂食亢進作用有するのではないかという知見が得られた。すなわち通常の摂餌量を観察すると、昼間の摂餌量は若干あがるものの、夜間摂餌量及び総摂餌量はむしろ減少していた。またPACAPノックアウトマウスでは2日間の絶食後給餌を再開し 4時間後或は8時間後の摂餌量は有意に抑制されていた。その折の摂食関連遺伝子の発現変動を検討すると、PACAPノックアウトマウスでは、給餌再開4時間後において、野生型では上昇するNPYおよびAGRPの遺伝子発現が有意に抑制されていた。絶食時における視床下部のPACAPの遺伝子発現は有意に増加していた。このように視床下部におけるPACAPは、摂食調節に促進的に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
PACAPノックアウトマウスを入手し、摂食調節について検討したところ、従来考えられていた摂食抑制作用ではなく、PACAPはむしろ摂食に関して促進作用を示すという興味ある知見を得られた。またグリコーゲン代謝に対する作用をマウス初代培養アストロサイトを用いて検討したところ、グリコーゲンの分解及び合成の両方に促進的に作用することが明らかとなった。特にグリコーゲン分解に対しては、既知の神経伝達物質であるノルアドレナリンやセロトニンよりも格段に低濃度で促進するという興味深い知見が得られた。これらの知見はPACAPの代謝調節の全容解明に大いに貢献することが示唆されるものであることから、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
In vivo系実験として、PACAPノックアウトマウスのVMNに持続的にマキサディランを投与し、その摂食行動に及ぼす効果を検討する。またCre-loxPシステムによるVMN特異的にPACAPをノックアウトし、その摂食行動に及ぼす効果を検討する。In vitro系実験として、PACAPが前年度グリコーゲン分解及び合成の両方を促進することを明らかにしたが、脂質代謝において、脂肪分解作用を引き起こす一方で、高レベルのインスリン存在下では脂肪合成作用を促進することが報告されていることから、糖代謝と脂質代謝の機能的連関性について検討する。PACAPの代謝活性に及ぼす効果と摂食量の調節についての解析により、PACAPノックアウトマウスでは、体内脂肪組織量は減少するものの体重は野生型と変わらないことの理由が明らかになることが期待される。さらには解糖により産生される乳酸が、PACAPの高次神経機能とりわけ学習記憶に対する作用との関連性について検討していく。
他の研究費によるプロジェクト研究で使用する試薬・実験器具と重複することがあり、当初想定していたよりも小額で賄えたため。
今年度は2年に一回開催される国際VIP/PACAPシンポジウムの開催年となっているので、その海外出張旅費に充当する予定である。
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