下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)は、神経ペプチドとして中枢神経系に広く分布するが、視床下部に最も高濃度に局在する。神経系のみならず内分泌系、免疫系においても多様な生理活性を示すゆえに、神経伝達物質、神経栄養因子としての機能が注目され、盛んに研究されているため、視床下部における真の生理的機能の解明が遅れている。本研究ではPACAPの視床下部因子としての機能の再評価を目的とし、PACAP及びPACAP特異的受容体であるPAC1の遺伝子発現調節の解明を目指すとともに、最終年度においては摂食及び代謝におけるPACAPの機能についての解析を試みた。PACAPを脳室内投与或はPVNやVMNの視床下部領域などに注入すると摂食が抑制されることが報告されている。その一方で、PACAPノックアウトマウスでは、やせを呈することが報告されているが、我々は体重は野生型とほぼ同じであるが、内蔵脂肪が有意に減少していることを観察した。さらにPACAPノックアウトマウスでは、夜間の摂餌量が有意に減少、その結果総摂餌量は有意に低下、逆に昼間の摂餌量が有意に増加していた。また、2日間絶食によって、視床下部のPACAP遺伝子発現は、有意に増加した。PACAPノックアウトマウスでは、2日間絶食後8時間目における摂食が野生型に比べて減少していた。この摂食抑制は、PACAPノックアウトマウスの弓状核における摂食亢進作用を持つNPYやAGRPが、再摂餌4時間後に発現減少が観察されたことから、PACAPによるAgRPやNPYを介した摂食亢進作用が推察される。その一方で、摂食抑制作用を示すPOMCニューロンをPACAPが活性化することが報告されており、PACAPの摂食亢進作用と摂食抑制作用の相反する作用のメカニズムについて、さらに詳細に検討する予定である。
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