研究課題
昨年までの研究でアロマターゼ遺伝子(野性型及びFLAG/Mycタグ付加型)を安定導入したJEG3細胞及びN38神経細胞株を作成し、細胞内アロマターゼの酵素活性及びタ ンパク質量に対するリン酸化・脱リン酸化酵素による制御を確認した。平成26年度は同定されたリン酸化キナーゼ、CaMKIIの精製標品を用いて精製アロマターゼをin vitroでリン酸 化させ、LC/MS/MS分析によりアロマターゼのリン酸化部位の同定を試みたが、明確なリン酸化部位を決定することは出来なかった。そこで、アロマターゼ分子への部位特異的変異導入によりリン酸化部位を潰し、酵素活性及び酵素タンパク質の制御及に関与する部位の同定を進めた。しかしやはり大腸菌を使用した一過性発現系では明確なリン酸化部位は決定出来なかった。Phos-Tag系による解析やリン酸化抗体を使用した解析では明らかにアロマターゼ分子のリン酸化が確認されているので、現在、部位特異的変異アロマターゼの安定発現系を構築して、解析を進行中である。またエストロゲンの非遺伝子作用の最大のターゲット組織である神経細胞におけるアロマターゼの翻訳後調節機構もさらに調べた。アロマターゼ遺伝子を安定導入したマウス視床下部神経細胞由来N38細胞は神経伝達物質やNMDA等によるカルシウムシグナル伝達経路を活性化した時に活性低下を観察した。一方、GABA誘導体のGabapentinでは活性低下が抑えられた。アロマターゼタンパク質の安定性は、小胞体ストレスによって安定性が著しく低下し、プロテアソームによる分解が亢進することも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
現在までの研究で、性腺組織から脳神経系まで種々の組織に広く局在し、組織特異的生理機能に関わっているアロマターゼ分子は転写レベルの発現調節のみならず、酵素として翻訳合成された後、種々の生理的刺激に応じてその活性が調節されていることを明らかにした。またアロマターゼ分子のこうした翻訳後調節は、外的及び内的刺激に対して生じるCaイオンの変化を介したCaMKII及びカルシニューリンによるリン酸化及び脱リン酸化によってなされていること、さらにこの翻訳後調節は刺激後10―20分で生じる急激な可逆的酵素活性の低下及びその後に生じる急激な不可逆的アロマターゼ蛋白質分解の2段階で進行することも明らかにした。こうしたこれまでの研究によりアロマターゼ酵素活性、延いてはエストロゲン生成の迅速な調節を可能にする翻訳後調節の実態を明らかにすることに成功しており、概ね、実験計画に従って成果は得られている。ただアロマターゼの分解調節の応答時間やプロテアソーム分解系阻害剤に対する感受性が解析に使用する細胞種に依存して差が存在することも明らかになっており、細胞種により分解調節系が異なる可能が示唆された。
アロマターゼ酵素分子の翻訳後修飾にCaMKII及びカルシニューリンによるリン酸化・脱リン酸化が関わっていることが判明しているが、そのリン酸化部位に関しては、精製CaMKIIを使用した精製アロマターゼ蛋白質のリン酸化後、LC/MS/MSによるプロテアーゼ水解ペプチドのアミノ酸分析においても、性格な場所は確定することが出来なかった。Phos-Tag系による解析やリン酸化抗体を使用した解析では明らかにアロマターゼ分子のリン酸化が確認されているので、次善の策として、リン酸化部位の疑われるアミノ酸について部位特異的変異法により変異を導入したアロマターゼを大腸菌に一過性に強制発現させて活性及び蛋白質レベルでの効果を見たが明確な効果は確認出来なかった。そこでマウス神経細胞への安定発現系でリン酸化刺激を加えることによる活性・蛋白質への効果を調べる方策を検討中である。またリン酸化アロマターゼの酵素活性、酵素分解過程に関わる分子機構についても詳細な解析を検討している。現在までの研究でリン酸化アロマターゼの認識に小胞体由来の熱ショック蛋白質及びその後のユビキチン化酵素群の関与が示唆されているので、明確にアロマターゼの翻訳後修飾に関与する一連の酵素群分子の同定を行い、その詳細な分子機構を明らかにしていく。
現在の実験の進行状況下、残額235円で至急購入を必要とする物品はなかった。
次年度の予算と合わせて、実験に必要とする物品購入に当てたい。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
FEBS J.
巻: 281 ページ: 4830-4840
10.1111/febs.13021
J. Mol. Endocrinol.
巻: 53 ページ: 259-270
10.1530/JME-14-0048
Nature Commun.
巻: 5 ページ: 3061
10.1038/ncomms4061