研究課題
本年度は多くの生理活性分子の制御下、生殖行動などの短期的応答に関与するニューロエストロゲン産生を担うアロマターゼ(AROM)の急速な活性制御に注目してさらに研究を進めた。マウス視床下部神経由来のN38細胞を用い、神経伝達物質によってカルシウムシグナル伝達経路を活性化した場合、神経内アロマターゼの活性に急激な影響を及ぼした。AROM活性は酵素のリン酸化修飾と共にNMDA/グルタミン酸濃度依存的に5―10分で大幅に低下した。このリン酸化はAROM活性のみでなくAROM蛋白質の安定性低下により細胞内AROM蛋白量を減少させた。このAROM活性の低下はガバペンチンやニカルジピンで阻害、逆に活性化さえ引き起こした。またアセチルコリンやセロトニン等の神経伝達物質、GnIHやキスペプチン等の生理活性神経ペプチドはAROMの活性化を引き起こした。こうしたAROM活性の調節にはリン酸化・脱リン酸化が伴っており、複数の調節因子によるニューロエストロゲンの産生調節機構が示唆された。神経細胞N38のAROMの分解はプロテアソーム阻害剤であるMG132で著しく阻害され、ユビキチン化機構の関与も示唆された。神経細胞内でのAROM蛋白質の半減期が他組織・細胞とは異なり、2時間程度と非常に短いことを見出しており、AROMの分解がUBE2R2・CHIPによるユビキチン化の後にプロテアソームによって進行する事、さらに分解速度の調節が、カルシウムシグナル依存的なAROMのリン酸化修飾と小胞体局在のシャペロンタンパク質GRP94によってなされる事が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
現在までの研究でアロマターゼ(AROM)強発現細胞株のJEG3細胞を用いて、翻訳後のリン酸化・脱リン酸化で短期的には可逆的活性調節、長期的には不可逆的な蛋白質分解によるAROMの翻訳後二段階調節機構を明らかにしてきた。その活性調節に関わる一次メッセンジャーとしての調節因子、細胞内リン酸化酵素及び脱リン酸化酵素も明らかにしてきた。また蛋白質分解に関与するユビキチン酵素群やプロテアソーム系についても同定することが出来た。本年度から解析の対象を絞った視床下部・視索前野の神経細胞AROMによる急速なエストロゲン産生制御とそれによって応答・発揮される性行動を中心とした生理機能との相関は頻繁に報告されているが、その実態は明確になっていない。本年度までに神経細胞AROM活性を正・負に制御に関与する神経伝達物質・生理活性物質を明らかにすることが出来た。その結果、従来から報告のある性行動を制御するGnIH、ペプスタチンなどの神経ペプチドや種々の神経伝達物質によるAROMのリン酸化・脱リン酸化と活性調節、性行動の発露との関係も明らかにすることが出来ている。
これまでの研究でAROMのリン酸化・脱リン酸化による短期的で可逆的な活性調節が明らかになったが、 そうした活性調節を担うリン酸化部位は同定出来ていない。昨年までは精製CaMKIIでリン酸化した精製アロマターゼ蛋白質のLC/MS/MSによるアミノ酸分析、リン酸化候補アミノ酸に対して部位特異的変異導入法により大腸菌に発現させたAROMに対する活性や蛋白質レベルでの解析、Phos-Tag系による解析やリン酸化抗体でも明確な効果は確認出来なかった。そこでマウス神経細胞への特定アミノ酸の部位特異的変異安定発現系について、リン酸化刺激に対するAROM活性・蛋白質への変化応答が大きい細胞株を選択し、対照群に対してリン酸化刺激下のAROM活性・蛋白質への制御効果を調べる方策を計画、準備中である。またリン酸化アロマターゼの酵素活性、酵素分解過程に関わる分子機構についても精製酵素系を使用した再構成系及び候補遺伝子の導入・安定発現細胞による詳細な解析を準備している。
予算残額で購入可能な研究に必要な消耗品がなかったので、既に購入した消耗品で研究を遂行した。
次年度予算と合わせて新規に研究に必要な消耗品を購入し、研究をさらに進展させる予定である。
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