研究課題
VGFは、限定された内分泌細胞および神経細胞に発現する約600アミノ酸から成る分泌性タンパク質である。近年、我々は質量分析法を活用して、VGFからNeuroendocrine Regulatory Peptide (NERPs)と命名した新しい4種類の生理活性ペプチドを同定している。これらのペプチドは、水電解質・エネルギー代謝に関わっていることを明らかにした。発現細胞の分泌ペプチドを質量分析で同定するアプローチは、抗体に依存せずに分子型を決定できる利点をもつ。その結果垣間見えてきた前駆体タンパク質のプロセシングおよび翻訳後修飾は、既存の生理活性ペプチド前駆体には見られないほどに複雑である。本研究では、VGF由来ペプチドの生理的役割の全容の解明の第一段階として、質量分析を駆使してそのプロセシングと翻訳後修飾の実態をより詳細に解析し、未同定の活性ペプチドを探索している。網羅性を高めることが重要であり、内在型ペプチドの同定数で4桁に達することができた。分析対象としては、ヒト膵、肺、甲状腺由来の内分泌腫瘍細胞株、マウス由来の胃の内分泌細胞不死化株、ラットの下垂体抽出物を用いて解析を継続している。現在までにVGF前駆体から由来し、いくつかの翻訳後修飾を受けた分泌ペプチドを同定しており、解析を進めるとともに、これまでに発見したNERPsについての機能解析を進める。また、NERP-1とNERP-2は、ラットの視索上核および室傍核の切片からの抗利尿ホルモンの分泌を抑制する作用を持つことを明らかにしているが、その機序は、NERP-1は、視索上核に存在する大細胞性神経分泌ニューロンとシナプスを作るグルタミン酸作動性ニューロンをシナプス前で抑制し、NERP-2はGABA作動性介在ニューロンを活性化し、シナプス前でグルタミン酸作動性ニューロンを抑制することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
ヒト由来内分泌細胞が分泌するペプチドの配列一斉解析については順調に進んでおり、論文化を目指している。マウス由来の胃内分泌細胞不死化株についても、その分泌ペプチドの解析を進めている。VGF前駆体からペプチド解析によって、以前に同定し、命名したNERP-1, NERP-2の抗利尿ホルモンの分泌を抑制作用の機序についても明らかにしている。また、NERP-4は、これらのペプチドとは逆に下垂体後葉のin vitro標本で、抗利尿ホルモンの分泌を促進する所見を得ている。
ペプチド同定の網羅性をさらに高めるために周辺分析技術の最適化を進めるとともに、質量分析で見いだされた候補ペプチドの機能解析を進める予定である。
当初予定より、安価に納入できた消耗品があり、1万6千円ほどの残額が生じた。
次年度使用額は一般的な消耗品として使用できる金額であり、適正に研究期間内に使用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件)
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