研究実績の概要 |
VGFは、ラット副腎髄質由来のPC12細胞を神経成長因子で刺激した際に誘導される遺伝子で、特定の内分泌細胞に発現する分泌性タンパク質をコードしている。配列内にホルモン類のプロセシングに特徴的な塩基性アミノ酸配列が散在することから、VGF前駆体は生理活性ペプチドの前駆体であると考えられてきた。我々は、分泌顆粒から放出されるペプチドを質量分析法を活用して一斉解析(secretopeptidome解析)し、既知情報や抗体に依存することなく、新しいペプチドを同定する手法を確立している。VGF前駆体からは新しいC末端アミド化ペプチドを2種同定し、Neuroendocrine Regulatory Peptide (NERP)-1, NERP-2と命名している(JBC, 282(36): 26354-60, 2007)。これらのペプチドは、ゲノム解析やプロテオーム解析では理論上同定できず、ペプチドミクス研究の優位性を示している。本研究では、VGF由来ペプチドを産生するヒト内分泌細胞由来培養株の分泌ペプチドを精査することにより、前駆体全長にわたるプロセシングの全容を明らかにするとともに、いくつかのプロセシング産物で、糖鎖付加体が存在することを明らかにした。NERP-1, -2は、膵島ではβ細胞に選択的に発現する。さらに、マウスのβ細胞株のsecretopeptidome解析によってインタクトなNERP-1を同定できた。宮崎大学との共同研究によりラット初代培養の膵島およびβ細胞株を10 nMのNERPsで3日間持続的に処理すると、グルコース誘導性のインスリン分泌が抑制されるとともに、インスリン分泌顆粒の数が減少することが判明した。また、糖尿病の膵臓ではNERP-2の発現が顕著に亢進することが明らかになった。このように、NERPsは内因性のインスリン分泌抑制因子であることを示唆する所見が得られた。
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