研究課題
基盤研究(C)
慢性骨髄性白血病(Chronic Myeloid Leukemia: CML)の幹細胞の制御機構はCMLの根治、すなわちCML幹細胞の根絶のために解明しなければならない喫緊の課題である。我々は転写因子C/EBPbetaがBCR-ABLのシグナルの下流に位置し、骨髄球系細胞への分化を促進するとともに、CML幹細胞を枯渇させる作用を持つことを明らかにした。しかし、CML幹細胞は生体内で長期にわたり維持されることから、C/EBPbetaの発現や機能を負に制御するような骨髄中の微小環境因子の存在が示唆される。本研究の目的は低酸素環境に着目し、C/EBPbetaの発現および機能を抑制するメカニズムを解明するとともに、その抑制を解除することでC/EBPbetaによるCML幹細胞の枯渇を促進するというCMLの根治に向けたストラテジーを樹立することである。我々は、この目的のためにCML細胞株を低酸素環境下に馴化させた細胞株(hypoxia-adopted: HA株)を樹立した。HA株は通常の酸素分圧で培養する親株と比してC/EBPbetaの蛋白質レベルでの発現が低下していることを見出した。mRNAの低下も伴っていることから、この発現低下は転写レベルで起こっていることが示唆された。我々はC/EBPbetaのプロモーター領域の単離を終えており、この範囲内に低酸素環境下の転写抑制に必要な領域が含まれているかどうかの検討を予定している。また、このC/EBPbetaの低下が、少なくとも試験管内ではインターフェロンや顆粒球コロニー刺激因子、トロンボポイエチンなどそれぞれ単独のサイトカイン刺激によってはは変化しなかったことから、低酸素状態では、急性の刺激によっても解除されないC/EBPbeta抑制機序の存在することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
低酸素によりC/EBPbetaの発現が負に制御されるという仮説は、用いた二種類の細胞株で示すことができた。また、この変化が酸素分圧の変化により可逆的に変化することも明らかにすることができた。したがって、酸素環境によりC/EBPbetaが負に制御されているという本プロジェクトの仮説は少なくとも部分的には支持することができたと考えられる。その詳細な分子メカニズムを明らかにするために、C/EBPbetaのプロモーター領域の単離は終えているが、低酸素に応答する部分は現時点では当該部位内では検出できていない。また、マウス骨髄細胞へのレトロウイルスによる遺伝子導入と骨髄移植を組み合わせたin vivoの実験は、飼育施設の微生物による汚染問題が生じたために遅延している。
低酸素によるC/EBPbetaの負の制御の分子機構をプロモーター解析および遺伝子発現の変化などから検討する。低酸素環境のマスター調整遺伝子として知られる転写因子HIF-1alphaの関与について明らかにするために、レトロウイルスによるshRNAの導入で発現をノックダウンする実験を予定している。またC/EBPbetaの抑制を解除できるようなサイトカインや低分子化合物などについてのスクリーニングを進める。場合によっては複数の因子間の相加・相乗効果についても検討する。予備的な検討から、C/EBPbetaの抑制にはエピジェネティックなメカニズムの関与も示唆されている。この詳細なメカニズムについては、DNAメチル化阻害剤の添加などの実験によって明らかにしていく。またC/EBPbeta抑制の分子メカニズムの解明と並行して、低酸素環境が白血病幹細胞の自己複製能にどのように関わっているか、また低酸素環境下でのC/EBPbetaの誘導によって白血病幹細胞の自己複製能がどのように変化するかをマウス骨髄細胞レトロウイルス感染と骨髄移植を組み合わせた実験系で明らかにすることにより、C/EBPbetaの抑制解除というストラテジーの治療的意義について明らかにする。
実験動物施設のSPF領域の微生物による複数回の汚染により、マウスの繁殖やマウスを用いた実験の実施が困難であった。そのために骨髄移植を用いるような実験については延期せざるを得なかった。マウスの骨髄移植には、サイトカイン、遺伝子導入試薬、マウス購入・繁殖・維持などに多額の費用が必要であり、今回それらの費用を次年度に持ち越して使用することとなった。実験施設の汚染問題は解決しており、十分に実施できなかった動物実験が再開可能となっている。C/EBPβノックアウトマウスをはじめとするマウスの繁殖や購入の他、抗体・試薬やプラスチック器具など消耗品の購入に充てる。また成果発表や研究打ち合わせのための旅費も計上する。
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