研究課題
骨髄異形成症候群(MDS)の発症機構の主要部を担う遺伝子異常の一つであるRUNX1変異は,化学療法や放射線療法後の治療関連造血器腫瘍症例に高率に認められ,放射線や化学療法によるMDSのバイオマーカーの1つと考えられる。原爆被爆者では,遠距離直爆例などの低線量被曝症例にも認められることから,これまでほとんど解析されていなかった低線量被曝に注目した。本研究「低線量被曝からMDS発症に至る疫学的解析および分子発症プロセスの解明」は,低線量被曝後非常に長い期間を経てMDSを発症する症例を解析し,過剰発生率の推定およびRUNX1変異を中心とした遺伝子異常の解明を試み,低線量被曝による長期的な健康被害の実態解明と示唆を行うものである。MDS患者について,被爆状況特に黒い雨への曝露歴などを聞き取り調査し,低線量被曝したと考えられる2km以遠での直爆、入市や黒い雨曝露症例を抽出した。新規または保存患者サンプルを用いてRUNX1変異などの遺伝子異常を検索した結果,2km以内の直接被爆者よりもむしろやや多い割合で変異が認められた。また,RUNX1変異による家族性MDS家系において,発端者の祖母が入市被曝者であったことについても,被曝の影響について解析を進めている。さらに,低線量被曝者で増加の見られるMDSにおいて,放射線被曝により高頻度に変異が生じるRUNX1遺伝子に注目し,RUNX1変異によるMDS発症機序の解析を行った。その結果,様々な遺伝子異常と協調して造血機能破綻をきたすことを解明し,被曝後年月を経てMDSを発症する機序が少しずつ明らかになりつつある。
2: おおむね順調に進展している
MDS患者について,被爆状況特に黒い雨への曝露歴などを聞き取り調査し,低線量被曝したと考えられる2km以遠での直爆,入市や黒い雨曝露症例を抽出した。新規または保存患者サンプルを用いてRUNX1変異などの遺伝子異常を検索した結果,このような低線量被曝が疑われる症例では,2km以内の直接被爆者よりもむしろやや多い割合でRUNX1変異が認められた。RUNX1変異は,これまでにセミパラチンスク核実験場周辺住民(黒い雨と同様のフォールアウトによる被曝)に発生するMDSにおいて,線量依存性に頻度が高くなることを示しており,低線量被曝によるMDS発症に重要な役割を果たすと考えられている。そこでRUNX1変異により被曝後長期間を経てMDSを発症する機序の解明を試み,様々な遺伝子異常との協調作用を中心に,発症機序の一端を解明することができた。
低線量被曝者で増加の見られるMDSにおいて,放射線被曝により高頻度に変異が生じるRUNX1遺伝子に注目し,RUNX1変異によるMDS発症機序の解析を行ってきた。その結果,様々な遺伝子異常と協調して造血機能破綻をきたすことが想定され,一部は既に報告したが,多くの強調遺伝子については現在も解析中である。引き続きこれらの解析を行い,被曝後年月を経てMDSを発症する機序の解明を進めていく。また,変異以外のRUNX1異常も認められたことから,その解析も推し進める。さらに,RUNX1変異による家族性MDS家系において,発端者の祖母が入市被曝者であったことについても,被曝の影響についての解析を開始したところであり,さらに解明を進めていく。
年度末(平成27年3月)に行った解析の一部が、次年度(平成27年4月)にずれ込んでしまった。
平成27年4月に実施し、使用する。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) 図書 (1件)
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