• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2013 年度 実施状況報告書

NF-κB制御因子IκB-ζのATL発症・進展機構への関与

研究課題

研究課題/領域番号 25461428
研究種目

基盤研究(C)

研究機関琉球大学

研究代表者

森 直樹  琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10220013)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワードHTLV-1 / 成人T細胞白血病 / NF-κB / IκB-ζ / Tax / インターフェロン応答遺伝子
研究概要

成人T細胞白血病(ATL)は、レトロウイルスHTLV-1感染を原因とするT細胞性悪性腫瘍である。その発症や進展には、ウイルス蛋白質Taxや転写因子NF-κBの活性化が重要であるが、両分子の過剰な発現・活性化は、抗腫瘍免疫や細胞死・老化を誘導するため、合理的な発現・活性化が不可欠である。本研究では、NF-κBの活性を正と負に調節するNF-κB結合補因子IκB-ζのATLの発症や進展における関与について解析した。
IκB-ζは感染T細胞で恒常的に核に発現しており、Tax発現細胞でより強い発現を認めた。TaxはNF-κBとCREBの活性化を介して、IκB-ζ遺伝子の転写を増強した。IκB-ζはNF-κB制御遺伝子Bcl3に加えて、IFN応答遺伝子(STAT1やGBPs)の発現も誘導した。IκB-ζによるNF-κBの活性化を介したBcl3遺伝子のエンハンサー活性の増強、STAT1遺伝子やISRE配列を介したGBP-1遺伝子のプロモーター活性増強を確認した。また、IκB-ζはTax依存性のiNOSやBcl3遺伝子の転写を相乗的に増強したが、Tax依存性のIκB-ζやIL-8遺伝子の転写活性を抑制した。さらに、NF-κBの活性化やTax依存性NF-κB、AP-1、HTLV-1のLTR活性化をIκB-ζは抑制した。
IκB-ζのNF-κB結合領域とTaxが会合し、IκB-ζによるBcl3の発現誘導には、NF-κB結合領域、核移行シグナル、転写活性化ドメインが必要であった。一方、TaxやRelA依存性のNF-κB活性化抑制には、IκB-ζの核移行シグナルを含むN末端187アミノ酸は必須ではなく、Tax依存性のLTR活性化の抑制には、N末端456アミノ酸が重要であった。
以上、IκB-ζはTaxやNF-κBの過剰な活性化やウイルス遺伝子の発現を巧妙に調節するフィードバック機能を有する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成25年度の研究目的は、IκB-ζの発現制御機構と機能を解析し、ATL発症・進展におけるIκB-ζの役割を明らかにすることである。今年度の実施研究とその成果を以下に記載する。
1.IκB-ζの発現が、HTLV-1感染細胞に特異的であり、HTLV-1のトランスフォーミング蛋白質Taxにより、その発現が転写レベルで誘導されることを明らかにした。2.TaxによるIκB-ζ遺伝子の転写活性化機構を詳細に解析した。3.IκB-ζの機能として、網羅的にIκB-ζの下流遺伝子の発現を解析し、NF-κB制御遺伝子に加え、IFN応答遺伝子もIκB-ζの制御下にあることを新たに見出した。4.IκB-ζが、TaxやNF-κBの機能を正と負に制御することを明らかにした。5.IκB-ζの機能領域として、NF-κB結合領域、転写活性化ドメイン、核移行シグナルを解析した。
以上の研究成果は、当初の研究計画を大部分遂行できたと判断できる。また、腫瘍生物学において著名な学術誌Neoplasiaにその成果が掲載されたことからも、達成度は高いと判断される。
NF-κBの調節分子であるIκB-ζの発現が、ウイルス蛋白質Taxにより誘導され、その発現誘導機構にもNF-κB自身が関与していることやIκB-ζがTaxやNF-κBの機能を正と負に制御していることを見出し、「TaxとNF-κBの巧妙な活性調節にIκB-ζが重要な役割を果たしている」新知見を明らかにした意義は大きい。また、HTLV-1の発がん機構におけるIκB-ζの重要性を発見したことに加えて、IκB-ζがIFN応答遺伝子の発現も誘導するという事実を見出し、今後のIκB-ζ研究における新たな展開が期待できる。

今後の研究の推進方策

1.T細胞以外の細胞におけるIκB-ζ制御下の遺伝子の網羅的な解析:非感染T細胞株Jurkatを用いて、IκB-ζ遺伝子を過剰発現させ、その下流の遺伝子を解析したが、T細胞以外の細胞では、異なる遺伝子の発現が誘導される結果を得ている。そこで、293T細胞にIκB-ζ遺伝子を過剰発現させ、対照細胞との遺伝子発現の差を網羅的に解析し、IκB-ζ制御下の遺伝子を新たに見出す。
2.IκB-ζによるIFN応答遺伝子の発現誘導機構:IFN応答遺伝子として、STAT1とGBP1遺伝子のプロモーター領域を解析し、IκB-ζ応答領域を同定する。さらに、その制御機構を調べる。
3.EBウイルス(EBV)LMP-1やCD30によるIκB-ζの発現誘導機構:ATLはT細胞性の白血病・リンパ腫であるが、HTLV-1以外のウイルスであるEBVもB細胞性、T細胞性、NK細胞性のリンパ腫を引き起こす。なかでもバーキットリンパ腫(BL)やホジキンリンパ腫(HL)の発症において、EBVのトランスフォーミング蛋白質LMP-1は重要である。さらに、HLの発症には、TNFレセプターファミリーに属するCD30の役割も大切である。LMP-1やCD30によるNF-κBの活性化がBLやHLの発症・進展に重要であることは知られており、予備実験では、BLやHL細胞株において、IκB-ζが恒常的に発現していることを既に見出している。さらに、293T細胞において、LMP-1やCD30がIκB-ζを発現誘導することも確認している。そこで、これらの悪性リンパ腫発症関連分子によるIκB-ζの発現誘導機構や機能を解析することで、悪性リンパ腫全般の発症・進展におけるIκB-ζの役割を明らかにする。

次年度の研究費の使用計画

研究試薬の購入にあたって、当初見込みの金額より安価に購入できたため。
研究試薬購入

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Human T cell leukemia virus type I Tax-induced IκB-ζ modulates Tax-dependent and Tax-independent gene expression in T cells2013

    • 著者名/発表者名
      Ryuichiro Kimura, Masachika Senba, Samuel J. Cutler, Stephen J. Ralph, Gutian Xiao, Naoki Mori
    • 雑誌名

      Neoplasia

      巻: VOL. 15 ページ: 1110-1124

    • DOI

      10.1593/neo.131140

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Protein phosphatase 2A as a potential target for treatment of adult T cell leukemia2013

    • 著者名/発表者名
      Naoki Mori, Chie Ishikawa, Jun-Nosuke Uchihara, Takeshi Yasumoto
    • 雑誌名

      Current Cancer Drug Targets

      巻: VOL. 13 ページ: 829-842

    • DOI

      10.2174/156800961131300093

    • 査読あり
  • [雑誌論文] CD69 overexpression by human T-cell leukemia virus type 1 Tax transactivation2013

    • 著者名/発表者名
      Chie Ishikawa, Hirochika Kawakami, Jun-Nosuke Uchihara, Masachika Senba, Naoki Mori
    • 雑誌名

      Biochimica et Biophysica (BBA) - Molecular Cell Research

      巻: VOL. 1833 ページ: 1542-1552

    • DOI

      10.1016/j.bbamcr.2013.03.006

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Hippuristanol reduces the viability of primary effusion lymphoma cells both in vitro and in vivo2013

    • 著者名/発表者名
      Chie Ishikawa, Junichi Tanaka, Harutaka Katano, Masachika Senba, Naoki Mori
    • 雑誌名

      Marine Drugs

      巻: VOL. 11 ページ: 3410-3424

    • DOI

      10.3390/md11093410

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Epstein-Barr virus latent membrane protein 1 induces CD69 expression through activation of nuclear factor-κB2013

    • 著者名/発表者名
      Chie Ishikawa, Naoki Mori
    • 雑誌名

      International Journal of Oncology

      巻: VOL. 42 ページ: 1786-1792

    • DOI

      10.3892/ijo.2013.1871

    • 査読あり
  • [学会発表] HTLV-1感染T細胞株における恒常的IRF5発現2013

    • 著者名/発表者名
      石川千恵, 森直樹
    • 学会等名
      第61回日本ウイルス学会学術集会
    • 発表場所
      神戸国際会議場(神戸市)
    • 年月日
      20131110-20131112
  • [学会発表] PP2AはATLの治療標的となるか?2013

    • 著者名/発表者名
      森直樹, 石川千恵
    • 学会等名
      第75回日本血液学会学術集会
    • 発表場所
      ロイトン札幌・さっぽろ芸文館・札幌市教育文化会館(札幌市)
    • 年月日
      20131011-20131013
  • [学会発表] Constitutive expression of IRF-5 in HTLV-1-infected T-cell lines2013

    • 著者名/発表者名
      Chie Ishikawa, Naoki Mori
    • 学会等名
      第72回日本癌学会学術総会
    • 発表場所
      パシフィコ横浜(横浜市)
    • 年月日
      20131003-20131005
  • [学会発表] NVP-AUY922, a heat shock protein 90 inhibitor, has potent antitumor activity in adult T cell leukemia-lymphoma2013

    • 著者名/発表者名
      Hiroaki Taniguchi, Hiroo Hasegawa, Yoshitaka Imaizumi, Kunihiro Tsukasaki, Naoki Mori, Yasushi Miyazaki
    • 学会等名
      第72回日本癌学会学術総会
    • 発表場所
      パシフィコ横浜(横浜市)
    • 年月日
      20131003-20131005
  • [学会発表] PP2AはATLの治療標的分子か?2013

    • 著者名/発表者名
      森直樹, 石川千恵
    • 学会等名
      第6回HTLV-1研究会・シンポジウム
    • 発表場所
      東京大学医科学研究所講堂(東京都港区)
    • 年月日
      20130823-20130825
  • [学会発表] 成人T細胞白血病リンパ腫に対するHSP90阻害薬NVP-AUY922の抗腫瘍効果2013

    • 著者名/発表者名
      谷口広明, 長谷川寛雄, 佐々木大介, 安東恒史, 澤山靖, 今西大介, 今泉芳孝, 田口潤, 波多智子, 塚崎邦弘, 森直樹, 柳原克紀, 宮崎泰司
    • 学会等名
      第6回HTLV-1研究会・シンポジウム
    • 発表場所
      東京大学医科学研究所講堂(東京都港区)
    • 年月日
      20130823-20130825
  • [備考] 琉球大学大学院医学研究科 微生物学・腫瘍学講座ホームページ

    • URL

      http://w3.u-ryukyu.ac.jp/virology/Home.html

URL: 

公開日: 2015-05-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi