研究課題
レトロウイルスHTLV-1感染を原因とする難治性T細胞性腫瘍である成人T細胞白血病(ATL)の発症や進展には、ウイルスのトランスフォーミング蛋白質Taxや転写因子NF-κBの活性化が重要である。しかしながら、両分子の過剰な発現や活性化は抗腫瘍免疫や細胞死・老化を引き起こすため、適切な発現量や活性化が必要となる。NF-κBと結合し、その活性を正と負に制御するIκB-ζは炎症反応を調整する鍵分子である。昨年度は感染T細胞が恒常的にIκB-ζを発現しており、その発現制御にはTaxによるNF-κBやCREBの活性化が必須であることを明らかにした。また、IκB-ζがNF-κB制御遺伝子に加えて、IFN応答遺伝子の発現も誘導することやTax依存性のNF-κBやAP-1の活性化に加えて、ウイルスのプロモーター活性も抑制することを示した。本年度は、B細胞性悪性リンパ腫であるバーキットリンパ腫やホジキンリンパ腫もIκB-ζを核内に発現していることを明らかにした。膜蛋白質であるEBウイルス(EBV)のLMP-1やTNF受容体ファミリーの一つCD30はC末端にあるTRAF結合領域を介して、NIK/IKK/NF-κBを活性化し、IκB-ζの発現を誘導した。IκB-ζはLMP-1やCD30依存性のNF-κB活性化を阻害し、自身の発現やIL-6、IL-8、Bcl-3の発現を抑制した。NF-κBの活性阻害には、IκB-ζのC末端にあるNF-κB結合領域であるアンキリンリピートに加えて、転写活性化ドメインを含む中央領域も必要であった。NF-κB制御因子IκB-ζは、NF-κBの活性を絶妙に制御する核内蛋白質であり、その発現は種々のウイルス蛋白質やTNF受容体により制御されており、多くの白血病・リンパ種の発症や進展に重要な因子であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究目的の一つは、ATL以外のリンパ系腫瘍であるバーキットリンパ腫(BL)やホジキンリンパ腫(HL)におけるIκB-ζの発現を検討し、その発現制御機構や機能の解析を行うことであった。本年度の実施研究とその成果を以下に示す。1、BL細胞やHL細胞の核内にIκB-ζ蛋白質が恒常的に発現していることを見出した。2、細胞株の解析から、IκB-ζの発現がEBVのLMP-1やCD30に依存していることが示唆された。3、LMP-1やCD30は細胞内に局在するC末端のTRAF結合領域を介して、NIK/IKKを活性化し、IκB-ζのプロモーター領域に存在する二つのNF-κB結合配列へのNF-κBファミリー蛋白質の結合を誘導することで、その転写を亢進させた。4、IκB-ζの過剰発現は、LMP-1やCD30によるNF-κBの活性化を阻害し、IL-6、IL-8、Bcl-3遺伝子の転写を抑制した。5、同様の機序により、IκB-ζは自身の遺伝子の転写も抑制した。6、LMP-1依存性のNF-κB活性化の阻害には、IκB-ζのNF-κB結合領域であるC末端のアンキリンリピートに加えて、転写活性化ドメインを含む中央領域も必要であった。以上の成果は、第73回日本癌学会学術総会や第61回日本ウイルス学会学術集会で発表し、現在、学術誌に投稿中である。当初の研究計画を大部分遂行できたと判断できる。HTLV-1感染に加えて、EBV感染によってもIκB-ζの発現が誘導されたことから、ウイルス関連腫瘍の共通した発がん機構の一つにIκB-ζの発現が位置づけられる可能性が大きい。また、細胞内蛋白質であるTaxに加えて、膜蛋白質であるLMP-1やCD30によるIκB-ζの発現制御機構を明らかにした点も評価できる。核内に局在するIκBファミリーの機能は複雑であり、白血病・リンパ腫の発症・進展に関与する鍵分子である可能性が期待される。
BL細胞やHL細胞におけるIκB-ζの機能をより詳細に解析する目的で、IκB-ζのノックダウン後に変化する細胞遺伝子を網羅的に解析する予定である。また、ノックダウンによる細胞周期や細胞死、細胞浸潤や走化性に及ぼす影響も検討したい。Tax及びLMP-1依存性のNF-κB活性化をIκB-ζは阻害した。一方、IκB-ζはTax依存性のAP-1活性化を抑制したが、LMP-1によるAP-1活性化は阻害しなかった。このようなAP-1活性化に及ぼすIκB-ζの影響の差についても今後、解析する必要がある。最後に残る謎は、同じNF-κB制御遺伝子であるにも関わらず、IκB-ζには転写を活性化する遺伝子と抑制する遺伝子が存在する点である。IκB-ζは、NF-κBファミリーのp50と結合した場合は、転写を活性化し、RelA(p65)と結合した場合は、転写を抑制するという報告もある。HTLV-1感染T細胞株やEBV感染BL細胞株、HL細胞株を用いて、細胞内におけるIκB-ζやNF-κBファミリーの結合、局在を詳細に調べ、その点を明らかにする予定である。また、IκB-ζ以外の核内IκBファミリーであるIκB-NSの発現についてもHTLV-1感染T細胞株やEBV感染BL細胞株、HL細胞株で検討し、その発現制御機構や機能について解析を加える。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
International Journal of Oncology
巻: 46 ページ: 1609-1618
10.3892/ijo.2015.2848
巻: 46 ページ: 印刷中
Oncology Letters
巻: 7 ページ: 1239-1242
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http://w3.u-ryukyu.ac.jp/virology/Home.html