研究概要 |
造血器腫瘍細胞にみられる染色体転座切断点近傍には生物学的に重要な機能を持つ遺伝子が存在している。染色体転座による遺伝子変化によってキメラ蛋白産生や蛋白発現亢進が生じ、腫瘍発生に深く関与している。 今回、B細胞性腫瘍にみられたt(8;17)(q24:q11)において、染色体転座切断点近傍にmicroRNA142(miR142)が存在して本転座を持つ腫瘍細胞に過剰発現していることを確認した。一方、miR142は造血前駆細胞に発現し、その過剰発現は造血前駆細胞からT細胞への分化を促進することが報告されている(Chen, Bartel, et al., Science, 2001)そこで、microRNA142をB細胞や幹細胞に過剰発現させる遺伝子改変マウスを作成し、microRNA142の造血器腫瘍発生や造血細胞分化における役割をin vivoで検討することにした。 造血幹細胞をはじめとする幹細胞に発現しているRunx1のイントロニックエンハンサーにmiR142を連結させた組み換えDNAを用いてトランスジェニックマウスを作成した。トランスジェニックマウスにおいては、造血細胞には特に変化は見られなかったが、精巣が委縮し精原細胞から精子への分化が阻害されていることが示唆された。今後、この表現型が偶発的なものではないことを確認して、細胞分化におけるmiR142の機能を検証していきたい。 免疫グロブリン遺伝子発現調節領域とmiR142を連結した組み換えDNAを用いて作成したトランスジェニックマウス(Eμ142マウス)では、生後2年を経過してもリンパ腫の発生はみられなかった。しかし、腹腔内や脾臓においてCD5陽性B細胞の増加がみられている。このことは、miR142の過剰発現がB細胞分化に関与していることを示唆する。今後、さらにmiR142によるB細胞分化調節の機序を検討する予定である。
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